蛍光シリカナノ粒子のバイオコンジュゲーション
Maria Ada Malvindi1, Enrico Binetti1, Pier Paolo Pompa1,2
1HiQ-Nano Srl, Via Barsanti, 73010, Arnesano (Lecce), Italy, 2Instituto Italiano di Tecnologia, Italy
Nanomaterial Bioconjugation Techniques(ナノ粒子表面修飾ガイドブック), 2017, p.17
はじめに
蛍光シリカナノ粒子(SiO2NP)と生体分子のコンジュゲーションを行うためには、いくつかの方法が用いられます。本稿では、静電相互作用による生体分子の吸着と、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)の化学的性質を利用した共有結合の2つの方法を中心に紹介します。よく制御された化学的および物理的性質(サイズ、形状、表面電荷、安定性など)を有する単分散で安定なナノ粒子を用いることで、修飾が容易になり、結合させる生体分子の数や配向をより精密にコントロールできるようになります。各反応ステップでのナノ粒子の特性評価は、修飾を直接制御するために役立ちます。
蛍光シリカナノ粒子のDNAによる修飾
蛍光シリカナノ粒子(797952)のオリゴヌクレオチド、プラスミド、siRNAによる修飾は、ナノ粒子表面への分子の吸着によって可能になります。生体分子のナノ粒子への吸着は、異なる電荷を帯びた成分の間の静電相互作用を介して起こります。DNAを吸着させる前に、ナノ粒子をアミン基で修飾して正に帯電した表面を作り、負に帯電しているDNA分子と相互作用できるようにします(図1)。通常、ナノ粒子表面にNH2を導入するために3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)が最も多用されています。修飾した後に、ゼータ電位測定を行ってナノ粒子の特性を評価し、表面電荷が負から正へ変化したことを確認することが推奨されます。DNAで修飾した蛍光ナノ粒子は、イメージング、診断、遺伝子および薬物送達などの複数の用途で使用することができます。
図1アミンで修飾した蛍光シリカナノ粒子へのDNA分子の静電相互作用による吸着
材料
- 蛍光SiO2ナノ粒子(製品リストを参照)
- 酢酸(45726)
- APTES(440140)
- TBE(45 mMトリス、45 mMホウ酸、および1 mM EDTA)
- 1%アガロースゲル
- SYBR® Green色素(L6544)
プロトコル
- それぞれ100 μgの蛍光SiO2ナノ粒子を入れたマイクロチューブを3本準備します。1本は対照として使用し、他の2本は異なる量のオリゴヌクレオチド、プラスミドベクター、RNA、またはDNAの吸着を試験するために使用します。
- 1 mLの1 mM酢酸にナノ粒子を分散させ、超音波処理器の槽内で5分間、またはナノ粒子が完全に再分散するまで超音波処理します。
- 50 μLのAPTESをナノ粒子溶液に加えて、–NH2基をナノ粒子表面に導入します。
- 室温で1時間撹拌します。
- 4,200 × gで30分間遠心分離し、ナノ粒子を沈殿させます。
- 上清みを除去して、1 mLの水を加えます。
- 手順5~6を4回繰り返して、過剰なAPTESを確実に除去します。
- ゼータサイザーを使用してゼータ電位を測定し、ナノ粒子の表面電荷が負から正に変化したことを確認します(図2)。
- 4,200 × gで30分間遠心分離し、3本のマイクロチューブ内のナノ粒子を沈殿させます。
- 上清みを除去し、各ナノ粒子サンプルをTBE(45 mMトリス、45 mMホウ酸、および1 mM EDTA)に分散させます。
- アミノ基で修飾したナノ粒子のDNA結合能を定量化するため、異なる量のオリゴヌクレオチド(0.5および2 μg)1,2を2つのサンプルに加え、2時間インキュベーションします。残りのナノ粒子溶液は対照サンプルとして使用します。
- インキュベーション後、ナノ粒子とDNAの混合物(図3、列2、3)を、SYBR® Green色素を含むTBEバッファー中の1%アガロースゲルにロードします。また、アミンで修飾したナノ粒子(図3、列4)およびオリゴヌクレオチド(図3、列1)の2個の対照試料もゲルにロードします。
- 40分間(100 V)の電気泳動後、UVトランスイルミネーター上でゲルを観察し、ゲル撮影装置を使用してDNAを定量化します(図3)。ナノ粒子に対するDNAの割合が大きい列では、未結合のDNAのバンドが太くなっているのがわかります(図3、列3)。
- ゲルおよび溶液中のナノ粒子の分散を評価して、ナノ粒子の修飾に使用するDNAの濃度を選択します。溶液中でナノ粒子が凝集している場合は、修飾の手順(手順11)で使用したDNAの量が過剰だったことを示しています。
- ゼータ電位測定を行って、ナノ粒子-DNAの表面電荷の変化を確認します(図4)。
- DNAで修飾したナノ粒子は、使用するまで4℃で保管します。
図2アミンで修飾した蛍光SiO2ナノ粒子のゼータ電位。ナノ粒子の表面が正に帯電していることから、ナノ粒子がアミンで修飾されたことが確認されます。
図3アミンで修飾した50 nmの蛍光SiO2ナノ粒子100 μgと混合した2つの量のDNA(0.5および2 μg)の電気泳動を40分間(100 V)行った後の泳動パターンを示した代表的なゲル。列1:DNA、列2:0.5 μgのDNAと混合した蛍光SiO2ナノ粒子、列3:2 μgのDNAと混合した蛍光SiO2ナノ粒子、列4:アミンで修飾した50 nmの蛍光SiO2ナノ粒子。
図40.5 μgのDNAと混合した蛍光SiO2ナノ粒子のゼータ電位。ナノ粒子の表面が負に帯電していることから、DNAがナノ粒子表面に吸着していることが確認されます。
蛍光シリカナノ粒子の抗体による修飾
蛍光シリカナノ粒子の抗体による修飾は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を架橋剤として使用し、カルボキシル化蛍光シリカナノ粒子と抗体のアミン基との間にアミド結合を形成することで行います。以下に、蛍光シリカの表面をカルボキシ基で修飾し、抗体と共有結合させる手順の概要を示します。ナノ粒子は最初にアミン基で修飾した後、無水コハク酸で処理してカルボキシ基を付加します。次に、これらナノ粒子をEDCとNHSで活性化し、抗体とインキュベーションします(図5)。この手順では、カルボキシ基が抗体のFc領域のアミン基とコンジュゲーションするため、抗原結合サイト(Fab領域)と標的との結合は妨げられず、抗体の機能性は完全に保たれます。ゼータ電位とDLSにより各ステップでナノ粒子の特性評価を行います。
図5カルボキシ基で修飾した蛍光シリカナノ粒子への抗体分子の共有結合
材料
プロトコル
- 蛍光SiO2ナノ粒子を2 mg量り取ります。
- 1 mLの1 mM酢酸にナノ粒子を分散させ、超音波処理器の槽内で5分間、またはナノ粒子が完全に再分散するまで超音波処理します。
- 100 μLのAPTESをナノ粒子溶液に加えて、–NH2基をナノ粒子表面に導入します。
- 室温で1時間撹拌します。
- 4,200 × gで30分間遠心分離し、ナノ粒子を沈殿させます。
- 上清みを除去して、1 mLの水を加えます。
- 手順5~6を4回繰り返して、過剰なAPTESを確実に除去します。
- ゼータサイザーを使用してゼータ電位を測定し、ナノ粒子の表面電荷が負から正に変化したことを確認します(図6)。
- 4,200 × gで30分間遠心分離し、ナノ粒子を沈殿させます。
- 上清みを除去し、ナノ粒子を10%無水コハク酸を含むジメチルホルムアミド(DMF)中に分散させて24時間撹拌します。
- 4,200 × gで30分間遠心分離し、ナノ粒子を沈殿させます。
- 上清を除去して、1 mLの水を加えます。
- 手順11~12を4回繰り返して、過剰な無水コハク酸を確実に除去します。
- ゼータサイザーを使用してゼータ電位を測定し、ナノ粒子の表面電荷が正から負に変化したことを確認します(図7A)。
- 動的光散乱法(DLS)でサイズを測定し(図7B)、ナノ粒子が十分に分散していることを確認します。
- 10 mM EDCと10 mM NHSを加え、カルボキシ基を1時間活性化します。
- 活性化したナノ粒子に30 μgの抗体を加え、3時間インキュベーションします。
- インキュベーション後、抗体がコンジュゲーションしたナノ粒子を水で3回洗浄し、2 mLの水に溶解します。
- ゼータサイザーを使用してナノ粒子の表面電荷を測定し(図8A)、手順14で測定した電荷に近いことを確認します。
- 動的光散乱法(DLS)でサイズを測定し(図8B)、ナノ粒子が十分に分散していることを確認します。粒子サイズの増加が予想されます。
- 0.1%BSAを加えます。
- 抗体で修飾したナノ粒子は、使用するまで4℃で保管します。
図6アミンで修飾した蛍光SiO2ナノ粒子のゼータ電位。ナノ粒子の表面が正に帯電していることから、ナノ粒子がアミンで修飾されたことが確認されます。
図7A)カルボキシ基で修飾した蛍光SiO2ナノ粒子のゼータ電位。ナノ粒子の表面が負に帯電していることから、ナノ粒子がカルボキシ基で修飾されたことが確認されます。B)カルボキシ基で修飾した蛍光SiO2ナノ粒子のDLS。ナノ粒子が水中で十分に分散しています。
図8A)抗体がコンジュゲーションした蛍光SiO2ナノ粒子のゼータ電位。抗体がナノ粒子表面にコンジュゲーションしても、ナノ粒子の表面電荷に大きな変化はありません。B)抗体がコンジュゲーションした蛍光SiO2ナノ粒子のDLS。サイズの増加は、抗体が粒子表面にコンジュゲーションした結果だと考えられます。
掲載誌
「ナノ粒子表面修飾ガイドブック Nanomaterial Bioconjugation Techniques」
まとめてご覧になりたい方のためにPDFをご用意しています。
蛍光シリカナノ粒子
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参考文献
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