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バイオイメージングに向けた蛍光ナノダイヤモンドの機能化

Marco Torelli1, Nicholas Nunn1, Olga Shenderova1,2

1Adámas Nanotechnologies, Inc., 2Department of Materials Science and Engineering, North Carolina State University, Raleigh, NC

蛍光ナノダイヤモンドとは?

蛍光ナノダイヤモンド(FND:fluorescent nanodiamond)は、優れた生物学的適合性と高い光安定性を示し、蛍光の明滅が起こらず、蛍光寿命が長く(>10 ns)、生体機能化が容易であるといった独特の性質を示します。これら特性のため、蛍光ナノダイヤモンドは、量子ドット、有機色素、蛍光ポリマービーズに代わるイメージング材料として注目を集めています1-3。FNDの蛍光は窒素を由来とする色中心に基づいています。高い光安定性が得られる理由は、この色中心が結晶格子内に構造的に組み込まれており、外的環境からよく保護されているためです。FNDの用途として、バックグラウンドフリーの長時間セルイメージング、子孫細胞の追跡、フローサイトメトリー、超解像度イメージング、相関顕微鏡法、低含有量細胞成分の標識化、画像誘導手術などがあります3,4。特徴的な蛍光に加え、負に帯電した窒素-空孔色中心はスピン活性を有するため、電磁場、温度、歪みなどの外部刺激によって蛍光を変調することが可能です。この特性から、FNDは、細胞内環境における温度変化の高精度測定を可能にする量子ナノセンサー材料として優れています5

蛍光ナノダイヤモンドの特性:色、輝度、サイズ

FNDの主な色中心からの発光は可視スペクトル領域にあり、窒素(N)と空孔(V)による欠陥の種類により発光波長の調節が可能です。例えば、NV中心を有するFNDは赤色~近赤外領域で発光しますが、NVN中心を持つFNDは緑色光を発し、N3中心を持つFNDは青色光を発します。様々な色中心のFNDの中で、NV中心とNVN中心を持つFNDが最も広く研究されています。FNDの蛍光強度は粒子サイズ(10 nm~1 μm)とともに増加しますが、これは体積の増加により粒子あたりの色中心の数が増加するためです。実際に、3 ppmのNV-中心を有する(電子スピン共鳴により確認)80 nmのFND1個の発光強度は、Atto 532色素1分子の約10倍であることが示されています6。  

FNDは炭素材料であるため、表面修飾は有機官能基の修飾により行うことができます。主な官能基は、カルボン酸(-COOH)、ヒドロキシ基(-OH)、アミン(-NH2)です。これらの官能基を用いることで、標準的な有機化学的手法(アミド化、エステル化、シリル化など)による配位子の結合が可能になります。様々に表面修飾されたFNDの中で、特にカルボキシ基修飾FNDは、生物学的利用に必要な修飾を行うための出発点として有用です。

ナノダイヤモンドは光を強く散乱するため、光の誘導と減衰の双方において有用です。大きなナノダイヤモンド粒子の溶液は乳白色ですが、50 nm未満になると、溶液の色が透明な茶色・琥珀色に変化し始めます(図1)。光の透過度が粒子サイズの目安となり、粒子を修飾する際のコロイド安定性の確認に利用できます。ナノダイヤモンドを修飾・改質した後、溶液に濁りやグレーがかった着色が見られた場合は、凝集が起きている可能性があります。多くの場合、凝集は可逆的であり、粒子表面の化学的性質(親水性または疎水性)に適した溶媒に粒子を再懸濁することで凝集を軽減することができます。

FND粒子懸濁液の外観

図120、40、100 nmのFND粒子の脱イオン水懸濁液。大型粒子は光散乱が非常に強いため、100 nmの懸濁液は乳白色に見えます。20 nm粒子の溶液と比較して、40 nm粒子では光学的透明度が若干低下しており、粒子が大きくなることで光散乱が増加していることを示しています。粒子サイズが十分小さく光散乱が減少すると、懸濁液は茶色または琥珀色を示します。これら懸濁液のFND濃度はすべて約1 mg/mLです。

留意すべき点として、市販されている多くのFND粒子は、単位体積あたりの重量(w/v)を基に販売されていますが、表面修飾をさらに行う場合は粒子数密度(単位体積あたりの粒子数)を確認しておくことが重要です。含まれる粒子の質量が一定の場合、サイズの減少に伴い粒子数密度は劇的に増加します。その結果、可能性のある反応サイト数が増加して粒子間の間隔が減少し、凝集の可能性が増加します。したがって、修飾を成功させるためには粒子数密度を調節する必要があります。粒子数密度(C (M))は、粒子の直径d(nm)と、ダイヤモンド密度、粒子あたりの質量、アボガドロ数から得られる重量/体積濃度(x、mg/mL)を用いて次式で容易に求められます。

数式1

反応に利用可能な表面サイトの数(N)は、表面のCOOH基の面密度(ρ、約0.5~1基/nm2)、使用する粒子溶液の体積(V)、粒子表面積(d)と次式の関係にあります。

数式2

蛍光ナノダイヤモンドの生物学的機能化

アミンとカルボン酸のカルボジイミドカップリングは、ND表面への分子の結合に効果的な方法です。EDC/NHS [1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスクシンイミド]は、一級アミン末端基とカルボン酸を直接反応させるためによく利用されています。他にも、中間の活性化段階を経由して反応を進行させる方法があります。この方法では、最初にNHSまたはスルホ-NHSでカルボン酸を活性化し、次にカップリング剤を除去した後にアミンを反応させます7。この2番目の経路は、重合する可能性のある、アミンとカルボン酸の両方を含んだヘテロ官能基(タンパク質など)に特に有効です。

粒子間の静電反発力は、溶媒中に分散した、イオン化の可能な官能基で被覆された粒子を安定化しますが、粒子の修飾によりこの反発力が低下する場合があります。EDCとNHSはともに表面の負電荷を不活性化するため、ゼータ電位が低下し、反発力による安定化が弱まる結果、凝集が起こります。硫酸基を含むスルホ-NHSは、負電荷を維持することで修飾の際の粒子の安定性を向上するためによく使用されています。また、培地では、イオン強度の増加が悪影響をもたらしますが、この問題を回避するために超分岐PEGを用いた修飾が有効であることが示されています8。修飾の際の粒子の安定性を維持する他の方法として、PEG化カルボジイミドを使用する方法9や、粒子および試薬のトータルの濃度を抑えて反応させる方法などがあります。

生体分子をダイヤモンド表面に結合させる簡便な手法の1つとして、クリックケミストリーを介したコンジュゲーション法があります。例えば、テトラジン修飾したNDは、タンパク質または抗体で粒子を標識化するために、室温で速い反応速度(最大26,000 M-1s-1)でトランスシクロオクテンと反応させることができます10-12。このコンジュゲーション法には、反応に触媒が不要、反応の直交性が高い、高価な試薬の廃棄量が減るといった利点があります13

タンパク質で修飾した蛍光ナノダイヤモンド

アビジン-ビオチン相互作用は、バイオテクノロジーや生物医学用途で最も一般的な結合の1つであり、FNDを使用した細胞内標識化でも特に有効です2。どのような種類のND修飾であってもPEG化は有用であり、タンパク質の形状を保護し、立体障害を低減する柔軟な層を提供します。

以下の例はサブミクロンサイズの大型FNDを示したもので、通常の蛍光顕微鏡でも個々の粒子を容易に観察することができます。サブミクロンFNDは反応効率の検証に有用で、化学的な啓蒙や教育的活動のプラットフォームにも適しています。図2に示している実験結果では、NVN中心を含むビオチン化FND(緑)と、NV中心を含むストレプトアビジン修飾FND(赤)が使用されており、それぞれが多数のストレプトアビジンまたはビオチンを持っています。インキュベーション時間と粒子濃度が、得られるコンジュゲートに強い影響を及ぼします。開始時の赤色および緑色FNDの濃度が低く、インキュベーション時間が短い場合、コンジュゲーション粒子の二量体または三量体が得られます(図2a)。粒子が多価であるため、時間の経過とともに複数粒子からなる凝集体が形成し、色が交互に並びます(図2b)。このようにビオチンとストレプトアビジンで修飾したFNDが交互に配置されることは、これらFNDが粒子の自己組織化にも使用できる可能性を示唆しています5

NVN中心を含むビオチン化FNDとNV中心を含むストレプトアビジン修飾FNDの画像

図2NVN中心を含むサブミクロンサイズのビオチン化FND(緑)とNV中心を含むストレプトアビジン修飾FND(赤)が結合した画像。a)インキュベーション時間が30分とb)一晩の場合の比較。

上記と同様のストレプトアビジンの化学的性質を利用して、図3では、マウスマクロファージ細胞内のビオチン化内部標的を、ストレプトアビジンで修飾した40 nmの赤色FNDで標識化した結果を示しています。この図では、形態やFNDの局在化をはっきりと観察することができます。40 nmのFNDの輝度は、細胞内標識に用いるのに十分に高いことが明らかです。

ストレプトアビジンで修飾した40 nmの蛍光ナノダイヤモンド

図3ビオチン化細胞内標的を標識した、NV中心(約2 ppm)を含むストレプトアビジンで修飾した40 nmの蛍光ナノダイヤモンド(中央)。DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)で染色した核()との比較および重ね合わせ()。画像は、Dr. Lindsay Parker氏(ARC Centre of Excellence in Nanoscale Biophotonics, Department of Chemistry and Biomolecular Sciences, Macquarie University, Sydney, Australia)提供。

ナノダイヤモンドのコンジュゲーション方法

a)ストレプトアビジン修飾

ストレプトアビジンによる修飾には、カルボキシポリエチレングリコールND(ND-PEG-COOH)を用います。反応は水中で進行させることも可能ですが、ジメチルホルムアミド(DMF)中で行うことでNDの安定性が向上し、スルホ-NHSの活性化の改善と、凝集の減少が見られます。なお、利用可能な反応サイトの数は粒子の大きさによって変化するため、具体的な反応条件を決定する際にはその点を考慮する必要があります。

  1. ペレットの作製に必要な最小限のRCFで、ND粒子を水中で遠心分離します。
  2. DMF中に <50 nM(一般的には<1 mg/mL)の濃度でペレットを懸濁させ、5分間超音波処理します。粒子は容易に再懸濁するはずです。
  3. 反応サイト数に対して約300倍過剰なモル数のスルホ-NHSおよびEDCを、先にスルホ-NHSから加えます。例えば、前述した式1および式2を用いて、50 nmの粒子に対して必要なスルホ-NHSおよびEDCの量は140 nmol/mgと概算されます。注意すべき点として、凝集が問題にならない限り、多くの場合は1 mg のEDC/NHSがあれば十分過ぎるほどです。凝集が懸念される場合は、EDC/NHSの量を減らします。
  4. 手順3の溶液を簡単にボルテックスし、30分間、ボルテックスおよび超音波処理を断続的に行いながら反応させます。緩やかな凝集により、溶液が濁る場合があります。
  5. 粒子を低RCF(<1000 x gで十分なはずです)でペレット状にし、DMFに再懸濁することで、粒子をDMFで洗浄します。
  6. 低RCFでペレット状にした後、水に再懸濁し(<50 nM、通常は <1 mg/mL)、超音波処理でペレットを完全に粉砕します。最大の安定性を得るためには、脱イオン水または低イオン強度(<10 mM)のバッファー中でのコンジュゲーションが推奨されます。
  7. 過剰量のストレプトアビジンを加えます。ストレプトアビジンの量は所望の被覆率に基づいて調節し、2~4時間反応させます。まず、粒子数濃度に対して100倍のストレプトアビジン濃度でスタートします。ただし、若干の凝集が観察された場合は量を減らしてもよいでしょう。過剰量のストレプトアビジンは、ストレプトアビジン自体による粒子間の架橋を防ぐために重要です。
  8. 過剰なストレプトアビジンを除去するため、最適な最終バッファーで少なくとも2回、粒子を洗浄します。遠心分離する場合は、ペレット化による凝集を避けるため、アミン(トリスまたはグリシン)を含む低分子を添加することで、ND表面に残留する反応性基を抑制することができます。別の方法として、この段階で大きな孔径(>150 kDa MWCO)の膜で粒子を透析することで、遠心分離の際の凝集を防ぐこともできます。安定性を向上するため、最終的な粒子をリン酸緩衝食塩水中の0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)に再懸濁することができます。
  9. FNDをストレプトアビジンで修飾した後は、4℃で保管する必要があります(凍結不可)。適切に保管されたNDは、数か月間にわたって活性が維持されるはずです。

b)ビオチン化

NDのビオチン化は、NHSをコンジュゲーションしたPEG-ビオチン(製品番号:670049)と、アミノ化ND(ND-NH2)を直接反応させることで行うことができます。別の方法として、PEGで被覆したアミノ化NDをビオチン-NHSに直接コンジュゲーションすることもできます。  

  1. ND-NH2を水から低RCF(例として5000 rcf)で遠心分離し、DMF(または他のNHSコンジュゲーションバッファー)中に再懸濁します。
  2. 反応性サイトに対して過剰量のモル数(1~10倍)のNHS-PEG-ビオチンを加え、一晩反応させます。
  3. 粒子を2回、DMFまたは水で洗浄し、所望の最終バッファー中に再懸濁させます。
  4. 粒子は4℃で保管する必要があります(凍結不可)。適切に保管されたNDは、数か月間にわたって活性が維持されるはずです。

c)ビオチン化/ストレプトアビジン修飾したナノダイヤモンドの結合

ビオチン化NDとストレプトアビジン修飾NDとの結合は、両者を短時間(例えば30分間)インキュベーションするだけで進行します。大型粒子の結合または粒子間の結合は、粒子サイズによる並進および回転自由度の減少や、統計的な結合の確率の減少のため、コンジュゲーションに要する時間が長くなる場合があります。インキュベーション時間を検討する際に、ストレプトアビジンもしくはビオチン化した要素のいずれかの多価性を考慮して調節することが重要です。ブロッキング剤(BSA、界面活性剤、グリセロールなど)の添加により、ストレプトアビジン/ビオチンの活性を低下させることなく非特異的結合を防ぐことができます。

要約すると,高い持続性もしくは高強度の発光を必要とする生物医学用途において、FNDは優れた蛍光プラットフォームになります。FNDのコンジュゲーションは代表的な有機系蛍光色素に類似しており、また、粒子あたりの輝度が高いことから、低レベルで発現する標的の標識化に非常に有効です。

これらの実現により、従来の有機色素を超えた研究の発展に役立つでしょう。  

謝辞  The work has been funded by the NHLBI, Department of Health and Human Services, under Contract No. HHSN268201500010C.

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