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Merck
ホーム細胞・発生生物学研究発生学的研究用の水

BPAフリー培養培地用の超純水

Merina Corpinot, PhD1, Maurizio Zuccotti, PhD2, Daniel Darbouret, PhD1

1R&D Department, Lab Water Solutions, Merck, Guyancourt, France, 2Laboratory of Developmental Biology, Department of Biology and Biotechnology “Lazzaro Spallanzani”, University of Pavia, Italy

本研究の目的は、水に含まれる低レベルの内分泌かく乱物質ビスフェノールA(BPA)を検出するための技術を確立すること、さらに具体的に言えば、Biopak®限外ろ過フィルターを搭載するMilli-Q® IQ 7000超純水製造装置(分子生物学的用途に推奨される構成)が、BPAの影響を受けやすい発生学的研究に適した参照用超純水をいかに生成するかを文書化することです。

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ビスフェノールAなどの内分泌かく乱物質の健康上の懸念

内分泌かく乱物質は、ヒトおよび動物の内分泌系に干渉する化学物質です。これらは、成長だけでなく生殖、免疫系や神経系にも影響を及ぼして、健康に悪影響を及ぼします。プラスチック(実験用消耗品や機器を含む)、ラッカー、樹脂および界面活性剤に見られる内分泌かく乱物質は、随所に存在すると考えられます。

食品・飲料中に許容される内分泌かく乱物質の最大用量、および環境中の存在量は、規格および基準によって規制されています。工業的に生成されるさまざまな内分泌かく乱物質の中でも、BPAは最も広く存在する物質の一つです。BPAはエストロゲンホルモンに似ているため「外因性エストロゲン」として知られます。そのため、重大な健康上の懸念が生じます。BPAがホルモンの産生とこれらの遺伝子の発現を妨げることが、複数の研究によって確認されています。最近の研究では、低レベルのBPA(1週間の胎児ばく露中の環境関連BPA用量に相当する、20 µg/kg/日)でも、卵巣内での卵母細胞の成長過程を妨げることにより健康な卵母細胞の産生に影響を及ぼすおそれがあることがわかっています1-3図1)。

以下に示す各試験の目標は、BPAを含まないこと、すなわち生殖生物学的実験に適したBPAフリー培養環境であることを確認する培地および溶液の調製に、Milli-Q®超純水製造装置から得られる超純水(タイプ1)の水質が適することを示すことにあります。

  • 試験1では、高性能固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフィー質量分析法(HP-SPME-GC-MS)を用いた、各タイプの水に含まれるBPAの分析結果を示します。
  • 試験2では、卵成熟に対するBPAの影響を評価するための細胞学的解析と分子解析の結果を示します。
  • 試験3では、セルイメージング技術に使用される培地における水の重要性を示します。
     
第二減数分裂中期のマウス卵母細胞の顕微鏡画像。

図1.減数分裂紡錘体(赤)および中心体(緑)に含まれるタンパク質を標的とする抗体を用いた、第二減数分裂中期におけるマウス卵母細胞の顕微鏡免疫細胞染色分析。染色体はDAPI(青)により対比染色した。

試験1:発生学的研究に使用される超純水中のBPAのHP-SPME-GC-MSによる測定

生殖生物学において、水は分析(培地調製など)を実施するために使用される重要な試薬です。

イタリアのUniversity of Paviaの科学者たちは、彼らの発生学的研究に用いる超純水のBPA含有量を、再現性に優れたHP-SPME-GC-MS法を使用して分析しました。分析対象の超純水は、Milli-Q® IQ 7000超純水製造装置から得られました。この装置には、最先端の逆浸透(RO)、Elix®連続イオン交換(EDI)および殺菌UVランプなどの精製技術の組み合わせを採用した、Milli-Q® HX純水製造装置と同じような装置から精製されるElix®純水が供給されました。Milli-Q® IQ 7000超純水製造装置は、採水ポイントにBiopak®ポリッシャーを備えています(図2)。Biopak®限外ろ過ポリッシャーは、分子生物学的用途においてエンドトキシン、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、およびバクテリアを含まない水を供給するために推奨されます。

各種実験用水に含まれるBPA分析の概略図。

図2.HP-SPME-GC-MSを用いた各種実験用水に含まれるビスフェノールA(BPA)の実験的分析の概要

HP-SPME-GC-MS分析により、ラボの実験への給水に使用されるElix®純水とMilli-Q®超純水のいずれにおいてもBPAは検出限界(LOD)4 nM以内で検出されなかった(表1)。

表1.水道水、Elix®純水、およびBiopak®ポリッシャー搭載Milli-Q®IQ 7000超純水製造装置によって供給される水に含まれるBPAの濃度は、(HP-SPME-GC-MSで測定される)4 nMの検出限界を下回った。

前述の通り、Biopak®ポリッシャーから実験用水を採水しました。Biopak®ポリッシャー搭載Milli-Q®IQ 7000から連続して採水した3種類の水サンプルを分析して得られた代表的な結果を図3に示します。GC-MS分析の再現性と堅牢性、およびBPAの日々の変動を後述する器具と方法のセクションに記載した手順に従って評価しました。

結果から、Milli-Q® IQ 7000から得られた超純水は、検出可能レベルのBPA(LOD = 4 nM)を含まない水質であることが示されました。特に、BPAは純水製造装置に給水する水道水で検出されなかったことから、BPAが装置から精製水に滲出しなかったことが分析によって判明しました。

Milli-Q®超純水サンプル中のBPAを評価するためのクロマトグラム。

図3.3種類の超純水サンプル中のBPAのレベルを示すクロマトグラム。サンプルは、Biopak®ポリッシャーを装備したMilli-Q® IQ 7000超純水製造装置の採水ポイントで連続的に採取した。

以下の2つの研究により、Milli-Q®超純水製造装置は、BPA汚染のない高品質の水を供給するために安心して使用でき、特にBiopak®ポリッシャー後に採取された水は、分泌かく乱物質が発生中の配偶子と胚に及ぼす影響の研究にさらに利用できることが示されました。

試験2:BPAフリー超純水の細胞学的解析および分子解析による卵成熟に対するBPAの影響の評価

特定の分子の影響を測定する場合は、目的の分子を含まない実験環境が必要です。ここに提示する試験では、4種類の母性効果遺伝子、つまりBrg1(クロマチンリモデラー)、Dnmt3aおよびDnmt3l(DNAメチラーゼ)、およびOct-4(細胞多能性のマーカー)の転写産物発現を分析するために、qRT-PCRを使用しました。サンプルは、10個の中期II(MII)マウス卵母細胞の独立した3プールで構成されました。これらは、完全に成長した洞卵母細胞の10 nM、100 nMまたは1000 nM BPAの存在下での15時間in-vitro成熟期(IVM)後に採取されました。

結果として、卵母細胞の大多数(96.5%)がMII期に達したことから、BPAは試験対象の3濃度用量において減数分裂成熟を抑制しなかったことが判明し、対照(CTR)とばく露サンプル間に有意差は見られませんでした。ただし、10 nM BPAで変化しなかったOct-4を除けば、試験対象の全遺伝子の発現は試験対象の全BPA濃度において有意に(未処理の対照より高くまたは低く)変化しました(図4)。

これらの遺伝子発現実験は、Biopak®ポリッシャーを装備したMilli-Q®IQ 7000超純水製造装置から採取された超純水を用いて実施されました。この結果は、このMilli-Q®装置から採水した超純水が、BPAの影響を受けやすい生殖生物学的用途への使用に適していることを裏付けています。

GVからMIIへの移行中にBPAにばく露されたマウス卵母細胞における母性効果遺伝子の発現プロファイル。

図4.GVからMIIへの移行中に10、100または1,000 nM BPAにばく露されたマウス卵母細胞における、Brg1, Dnmt3a, Dnmt3lおよびOct-4母性効果遺伝子の発現プロファイル。対照(CTR)サンプルの発現値を1として変化率を算出した。値は平均値±SDで示している。*p < 0.05、**p < 0.001。

試験3:セルイメージング技術に使用される培地に適したBPAフリー超純水

タイムラプス撮影を用いると、卵核胞(GV)から発生のMII期への移行中に卵母細胞の内部で生じる運動を観察できます(動画4)。細胞質運動速度(CMV)として知られるこれらの運動は、雌性配偶子卵子発生能(発生をさらに持続するための配偶子卵子の質と能力)を評価するための非侵襲細胞学的マーカーとして機能します。5,6 ここで報告する試験では、BPA濃度の増加がない、またはある状況で成熟した卵母細胞のGVからMIIへの移行中に生じるCMVを調べるために、この新しい技術を使用しています(図5は100 nM BPAの代表的なデータのみを示しています)。

細胞粒子画像流速測定法(細胞PIV)分析により、卵母細胞が試験対象のBPA用量に影響を受ける、特定の発生上の時間ウィンドウが示されました。特筆すべきは、10 nM BPAの低濃度にばく露された場合には、単一時間点においてCMVの変化が分散したのに対し、用量が高い場合には、GVからMIIへの移行中のタイムラプスが延長している間にCMVの変化が見られたことです。具体的には、100 nM BPAでは、クロマチンが凝結し、さらに動原体が凝集して大きな染色中心を形成することでMIプレートを形成している間の範囲内で大きな差が生じました(図5)。

上記のCMV実験に用いた培地は、Biopak®ポリッシャーを装備したMilli-Q®IQ 7000超純水製造装置から供給された超純水を用いて調製されました。100 nMの低用量BPAでも影響を及ぼすおそれがあることが、遺伝子発現または細胞質運動のいずれかの分析により検出されたため、BPAフリー培養培地の必要性を強調する結果となりました。

100 nM BPA中のマウス卵母細胞成熟の細胞質運動速度(CMV)の画像

図5.(A) GV卵母細胞の代表的な画像。フレーム1で撮影 (a)、およびフレーム100で撮影したMII卵母細胞 (b)。インサートは拡大画像で、細胞質運動の強度と方向が矢印(速度ベクトル)で示されている。矢印の色と長さは、運動の速度モジュールの前フレームとの比較を示している。色付きのベクトルスケールバー(nm/分):青は低速、紫は高速を示す。バー:10 μm。(B) 100 nM BPAがない(緑)またはある(灰色)場合の、マウス卵母細胞のGVからMIIへの移行中の細胞質運動プロファイル。*p < 0.05。

結論:BPAの影響を受けやすい胚発生研究用途に適した超純水

研究技術の感度と性能を向上させるには、実験結果の精度と信頼性を損なうおそれのある汚染を防ぐために高品質の純水が必要です。特に、高ブレークスルーの研究ツールが関与する研究では、研究結果を妨げるおそれのあるあらゆる困難(BPA、エンドトキシン、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、およびバクテリアなど)を回避するため、および実験的分析における信頼性を向上させるために、高純度の水が必要です。

発生学の分野では、低レベルの内分泌かく乱物質BPAでも、卵母細胞成長を妨げることによって胚発生研究を損なうことがわかっています。供給されるラボの水道水にBPAが元から存在するとは限りませんが、ラボの消耗品や機器から滲出して実験結果への干渉を引き起こすおそれがあるため、懸念事項となっています。

本資料では、低レベルのBPAが減数分裂成熟を抑制しなかったことが示されましたが、わずか10 nMの非常に低濃度のBPAでも、卵核胞(GV)から発生のMII期への移行中に卵母細胞の内部で生じる遺伝子発現と運動の両方に影響を及ぼしました。これらの結果は、BPAが検出不可能なレベルであることが保証された超純水を使用するなどのBPAフリーの環境で発生学的実験を行う必要があることを強調しています。

Biopak®ポリッシャーを装備したMilli-Q® IQ 7000超純水製造装置から供給された超純水は、本稿で用いた方法に準拠したわずか4 nMの非常に低い検出限界においても、検出可能なBPAを含まないことが示されました。従って、本装置が供給する超純水は、配偶子卵子および胚の発生に対する内分泌かく乱物質の影響の研究に安心して使用できます。

BPAの影響を受けやすい分析のニーズに対応した純水製造ソリューションをお求めの場合は、ラボ用純水専門家にご相談ください。 

BPAのHP-SPME-GC-MS分析に用いた器具と方法

装置

  • CombiPALオートサンプラー(CTC Analytics、スイス)を搭載するThermo Scientific DSQIIシングル四重極GC/MSシステム(TraceDSQII質量分析計、TraceGCUltraガスクロマトグラフ)を使用して水質分析を実施しました。
  • 長さ30 mm、0.25 I.D.、フィルムの厚み0.25 µmのRestek RxiTM - 5 msキャピラリーカラム(5%ジフェニル/95%ジメチルポリシラン – Restek Corporation、ベルフォンテ、米国)を使用し、また搬送ガスとしてヘリウムを1.0 mL/分の一定流量で使用しました。
  • 100 µmポリジメチルシロキサン(PDMS)SPMEファイバー・アセンブリを使用しました。前回の分析からのキャリーオーバーを避けるために、各分析の前にファイバーを250℃のニードルヒーターで20分間清掃しました。

標準物質の調製

10 nM濃度のBPAストック溶液を100%エタノールで調製しました。1、2、4、40 nmol/Lの4種類の濃度レベルによる較正曲線を得るために、HPLC水を用いて一連の希釈を行いました。

実験1:GC-MS分析の再現性と堅牢性の評価

3種類の給水源、すなわち水道水、Elix®純水、およびBiopak®ポリッシャー搭載Milli-Q® IQ 7000超純水製造装置のそれぞれから、3種類の水サンプル(5 mL)を連続的に採取しました。採水前に、5 Lの水を排水してシステムをフラッシュしました。

実験2:BPA濃度の日々の変動の評価

3種類の水サンプル(5 mL)を、水道水、Elix®純水、およびBiopak®ポリッシャー搭載Milli-Q® IQ 7000超純水製造装置から、24時間ごとに3日間採取しました。採水前に、5 Lの水を排水しました。クロマトグラムをオンデマンドで利用しました。

水サンプル

分析対象の水(水道水、Elix®純水およびBiopak®ろ過超純水と称する)5 mLを、20 mLガラス製バイアルに添加しました。各バイアルに、200 mg KHCO3、1 g NaClおよび使い捨て磁気撹拌子を添加しました。

標識

30 µLの無水酢酸を水サンプルに添加し、ポリテトラフルオロエチレン表面処理セプタム付きヘッドスペースアルミニウムキャップでバイアルを密閉しました。80℃での5分間の標識反応時間により完全な反応に達しました(50 rpmの連続撹拌を使用)。BPAのヘッドスペース抽出を、100 µm PDMSファイバーを用いて80℃で30分間、撹拌(500 rpm)しながら実施しました。250℃のインジェクターで2分間、SPMEファイバーを脱着処理しました。

クロマトグラフ分析

オーブン温度を150℃で2分間保ち、30℃/分で280℃まで上昇させてから6分間保ちました。インジェクションをスプリットレスモードで実施しました。スプリットレス時間は2分で、PTVインジェクター温度を250℃に保ちました。移送ラインを290℃、およびイオン源を250℃に保ちました。電子衝撃イオン化(EI)モードでMSを作動し、定量範囲がm/z 35~350 amuのフルスキャンモードと、定量イオンとしてm/z 270をBPAに用いたSIM(選択モニタリング)モードの両方でイオンを登録しました。

謝辞

本研究の実施に関しUniversity of Pavia(イタリア)の発生生物学研究室に感謝の意を表し、また本プロジェクトへの貢献に関しメルクのR&Dのメンバーに感謝の意を表します。

参考文献

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Susiarjo M, Hassold TJ, Freeman E, Hunt PA. 2007. Bisphenol A Exposure In Utero Disrupts Early Oogenesis in the Mouse. PLoS Genet. 3(1):e5. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.0030005
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Hunt PA, Lawson C, Gieske M, Murdoch B, Smith H, Marre A, Hassold T, VandeVoort CA. 2012. Bisphenol A alters early oogenesis and follicle formation in the fetal ovary of the rhesus monkey. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.. 109(43):17525-17530. https://doi.org/10.1073/pnas.1207854109
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Bui TTH, Belli M, Fassina L, Vigone G, Merico V, Garagna S, Zuccotti M. 2017. Cytoplasmic movement profiles of mouse surrounding nucleolus and not-surrounding nucleolus antral oocytes during meiotic resumption. Mol Reprod Dev. 84(5):356-362. https://doi.org/10.1002/mrd.22788
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Coticchio G, Fiorentino G, Nicora G, Sciajno R, Cavalera F, Bellazzi R, Garagna S, Borini A, Zuccotti M. 2021. Cytoplasmic movements of the early human embryo: imaging and artificial intelligence to predict blastocyst development. Reproductive BioMedicine Online. 42(3):521-528. https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2020.12.008
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