オートファジーとは、長く存在したタンパク質、細胞内小器官、およびタンパク質凝集態がオートファゴソーム内に捕捉され、その後リソソームと融合して分解されるという、高度に制御されたプロセスです。1この分解産物は、生合成経路に向かったりATPの産生に利用されて、自己の共食いによる細胞の生存を可能にするため、代謝ストレスやその他の悪条件下でオートファジーが誘導されることが多くあります。2オートファジーは正常な恒常性に必要である一方、がんなど多数の病的過程の発達に寄与すると考えられています。複数のがん種ではオートファジーの制御異常が起きており、最新の研究から、オートファジーは発がん性形質転換の間、複雑かつ細胞状況特異的な役割をこのプロセスに果たしていることが示唆されています。オートファジーは総じて、正常細胞および早期の発がん性形質転換では腫瘍抑制性のようですが、確立された腫瘍に対しては重要な生存経路として働くと考えられます。3-5
成長中および確立された腫瘍は、複数のオートファジー誘発性のストレッサーを受けます。たとえば低酸素、低栄養状態、増殖の亢進による高い代謝要求などです。非形質転換細胞ではこのようなストレッサーの影響により、通常、アポトーシスまたは壊死が生じます。しかし多くのがん細胞はアポトーシス閾値が高いため、多くの腫瘍細胞ではオートファジーの誘導が1つの生存機構として働き、代謝危機に応答したアポトーシスや壊死から逃れることを可能にしています。多くのがん細胞は急速な増殖により高い代謝要求を持っており、そのため、生合成代謝物の供給に関してオートファジーに大きく依存していると考えられます。6多くの抗がん剤は栄養の欠乏や飢餓を化学的に模倣するように設計されているため、治療に応答してオートファジーが往々にして増強されることは、驚くべきことではありません。 このような増強は治療抵抗性を伴うことが多くあり、これらの細胞が死を逃れるために利用する1つの方法であると考えられます。2,3,6
多くのがん細胞が生存のためにオートファジーに大きく依存しているということは、このような細胞のオートファジーを阻害することが実現可能性のある治療標的となりうることを示唆しています。オートファジー阻害剤による治療抵抗性獲得細胞の治療は、多くの予備的試験において特に有望であることが明らかにされています。たとえば、ER陽性乳がん細胞を選択的エストロゲン受容体修飾薬であるタモキシフェンで治療すると、通常、患者の30%までに抵抗性が発現します。7最近の研究で、乳がん細胞株をタモキシフェン活性代謝物である4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)で処理すると、生存細胞のオートファジーが増強される一方、オートファジー阻害剤と4-OHTで二重処理するとアポトーシス死が生じることが明らかになっています。8結腸がん異種移植試験における予備的エビデンスとして、ボルテゾミブとクロロキン(後期オートファジー阻害剤)による併用治療はいずれかの単独治療に比べ、腫瘍増殖の阻害に関して有効性が高いことが示唆されています。特に、オートファジー阻害剤であるクロロキンと、抗マラリア薬として広く利用されているヒドロキシクロロキンは現在、神経膠芽腫および骨髄腫の患者を対象とした第I相および第II相試験において検討が進められています。6その他の試験として、多様ながん細胞を小分子のオートファジー阻害剤、たとえば3-メチルアデニン、バフィロマイシンA、クロロキン、およびヒドロキシクロロキンで処理し、これらの細胞を複数の治療様式に対して感受性にし、結果としてアポトーシスを導くことができています。3,6腫瘍の生存におけるオートファジーの役割を読み解くことで、さらに特異的な阻害剤、そして、より優れた治療法が開発されることでしょう。
参考文献
続きを確認するには、ログインするか、新規登録が必要です。
アカウントをお持ちではありませんか?