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硫化鉛赤外量子ドット:特性と応用

Stuart Stubbs, Product Director

Quantum Science Ltd., Daresbury, UK

はじめに

硫化鉛(PbS)ベースの赤外量子ドットは、電磁スペクトルの近赤外(NIR:near-infrared)から短波長赤外(SWIR:short-wave infrared)にわたる広い波長範囲の赤外光を吸収・放出することができます。この量子ドット技術は、光検出器、光発電、赤外発光素子への実装に向けて精力的に研究開発されてきました。

PbS赤外量子ドットの光学的・物理的特性

PbS量子ドットの半導体バンドギャップは、サイズによって制御することができ、ナノ粒子のサイズが大きくなるほど吸収波長が長くなります。励起子吸収ピーク波長は、量子ドットをオプトエレクトロニクスへと応用する上で重要なパラメータであり、量子ドットの特徴として厳密に制御されます。励起子吸収ピーク波長は、吸収オンセットよりもわずかに高いエネルギーで強い吸収ピークとして観測されます。このピークの幅は、半値全幅(FWHM:full width at half maximum)で評価できます。FWHMが狭いということは、ナノ粒子が全体として単分散であることを示しており、ナノ粒子のサイズがすべて非常に近いことを意味します。このことは、エネルギーランドスケープが平坦で、エネルギー分布が狭く、超格子の形成によって性能が向上するような応用において理想的です。この点で、Quantum Science社の硫化鉛ベースの赤外量子ドットはFWHMが120 nm未満であり(図1)、クラス最高の光学特性を提供します。 

硫化鉛量子ドット(PbS QD)の示すIRスペクトル、狭いFWHM、高いピークバレー比は、LIDARやセンサーに理想的です。

図1Quantum Science社製量子ドットの光学特性を示す吸収スペクトル

材料の形状とサイズ分布の均質さは、透過型電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscopy)観察により確認できますが、図2に示すように、我々のPbS赤外量子ドットが単分散であることがわかります。1350 nm(925543、INFIQ® HP-R-1350 nm)および1550 nm(925535、INFIQ® HP-R-1550 nm)で吸収するPbS量子ドットの直径は、それぞれ約4.9±0.1 nmおよび6.0±0.1 nmです。ナノ材料の高い結晶性は、個々の量子ドットに見られる結晶格子構造からも確認できます。結晶性の高いナノ粒子は、デバイスの性能を低下させてしまう欠陥や望ましくない電子のトラップが少ないという利点があります。

硫化鉛量子ドット(PbS QD)のTEM像。光検出器における優れた赤外光感度をもたらす均一性と結晶性を持っていることがわかります。

図2異なるサイズの赤外PbS材料のTEM像

PbS赤外量子ドットの表面化学

量子ドット表面の配位子としては、合成における制御と、コロイドの安定化のために最適化された長鎖有機分子が用いられています。PbS赤外量子ドットの表面化学は非常に汎用性が高く、さまざまな溶媒に再分散させ、多様なデバイスの設計に適したコーティングができるように機能化することができます。この高い汎用性を鍵にして、ユーザーが目的のプロセスに合わせて材料を調整できます。

PbSベースの量子ドットを、超格子や薄膜内の電荷移動が重要な応用に用いるに際しては、長鎖アルキルリガンドは電荷の移動を制限する可能性があるため、さらなる表面修飾が必要になる場合があります。例えば、ベンゼンジチオールやエタンジチオールなどの架橋配位子を用いた固体状態での配位子交換や、多様な有機・無機配位子種を用いた液相での配位子交換が可能です。

PbS赤外量子ドットの応用

PbS赤外量子ドットを、光検出器、光電変換、赤外発光素子に応用するべく、精力的に研究が行われてきました。

  1. 溶液プロセスによって作製したPbSナノ粒子の赤外光検出器では、80%以上の光子変換効率が報告されており、SWIRで優れた感度を実現しています1
  2. PbS量子ドットを用いた光電変換デバイスは、従来の太陽電池では困難な赤外光の利用が可能です。地球に到達する太陽エネルギーの半分は赤外領域にあるため、これは利点となります。これらのデバイスは、単接合太陽電池または多接合「タンデム」電池のいずれとしても設計することができます2
  3. 赤外線発光ダイオード(LED:light emitting diode)は、監視やセキュリティ、ナイトビジョン、生物医学イメージング、分光学など、さまざまな分野で幅広く応用されています3

厳密に合成法を制御することで、PbS赤外量子ドットは優れた光学性能を達成しました。さらに、表面を的確に制御することで、長時間の高温処理にも耐える堅牢な材料を得ることもできます。例えば、150℃までの温度で30分間処理しても、光学特性に変化がないことが実証されています。これは、デバイス製造における短時間の高温での後処理に耐え得ることを強く示しています。

まとめ

Quantum Science社の高性能PbS赤外量子ドットは、現在1250~2000 nmの波長をカバーし、幅広い用途に適用であり、これまでの多くの研究の蓄積により、量子ドット製品の光学的および電子的特性は十分に評価されています。表面を多様な構造で容易に修飾できることから、PbS赤外量子ドットは、学術研究にもオプトエレクトロニクスデバイスへの利用にも展開できる、汎用性の高い材料となっています。

Quantum Science Ltd is a leading British materials innovation company that focuses on developing and commercializing technologies for machine-vision and sensing markets.

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References

1.
Vafaie M, Fan JZ, Morteza Najarian A, Ouellette O, Sagar LK, Bertens K, Sun B, García de Arquer FP, Sargent EH. 2021. Colloidal quantum dot photodetectors with 10-ns response time and 80% quantum efficiency at 1,550 nm. Matter. 4(3):1042-1053. https://doi.org/10.1016/j.matt.2020.12.017
2.
Choi M, García de Arquer FP, Proppe AH, Seifitokaldani A, Choi J, Kim J, Baek S, Liu M, Sun B, Biondi M, et al. Cascade surface modification of colloidal quantum dot inks enables efficient bulk homojunction photovoltaics. Nat Commun. 11(1): https://doi.org/10.1038/s41467-019-13437-2
3.
Pradhan S, Di Stasio F, Bi Y, Gupta S, Christodoulou S, Stavrinadis A, Konstantatos G. 2019. High-efficiency colloidal quantum dot infrared light-emitting diodes via engineering at the supra-nanocrystalline level. Nature Nanotech. 14(1):72-79. https://doi.org/10.1038/s41565-018-0312-y
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