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ディスプレイ技術への量子ドットの応用

コロイド状量子ドット(QD:Quantum Dot)は、量子力学に従う独特な光学特性を持つナノスケールの材料で、QD Vision社において開発された、新たなディスプレイ技術に用いられています。量子ドットはナノスケールのコロイド状半導体で、コロイドのサイズによってバンドギャップを調節することが可能です。QD Vision社では、これらの材料に、有機分子や、プラスチックエレクトロニクス(有機エレクトロニクス)のプロセス技術を組み合わせ、新たな固体ディスプレイの開発を行っています。有機材料は、安価に製造が可能で、フレキシブル基板上に堆積でき、明るく発光するため、ディスプレイなどの発光デバイスに有望な材料です。しかし、有機材料の利点と量子ドットの特性を組み合わせれば、さらに優れたデバイスを開発できるかもしれません。量子ドットLEDの概念は以前から実証されていましたが、初期に作製されたデバイスの効率と明るさは、商業化可能な素子技術に求められる数値よりも桁違いに低いものでした。QD Vision社の創立者は、相分離技術1などの新たな製造技術を開発しました。この技術を用いることで、量子ドットや低分子有機輸送材料(従来使用されていたポリマーではなく、Alq3やTPDなど)2から非常に高効率な量子ドットLEDを作製することができます。

量子ドットは、多くの点において、大面積フラットパネルディスプレイ(FPD)用のLEDに導入するのに理想的な発光団(luminophore)です。量子ドット発光は、広い電磁波スペクトル範囲で調節が可能です。例えば、CdSe量子ドットは、可視光スペクトルのほぼ全域である、470 nmから640 nmの光を発光することができます(図1))。量子ドットの発光は、可視光スペクトルの全域で調節が可能であるため、フルカラーフラットパネルディスプレイに必要な唯一の発光団となりえます。さらに量子ドットは、他の発光団では不可能な特有の性質を持ち合わせています。理想的な有機EL発光団とは、光ルミネッセンス量子効率が高く、電気的に生じた励起子の100%が発光でき、溶液処理が可能で、安定性と色差安定性(発光色が異なる同種類の発光団同士を比較したとき)が極めて高いものとされます。ポリマー、デンドリマー、蛍光性低分子、燐光性低分子のいずれについても精力的な開発が行われてきましたが、工業的ニーズを完全に満たす単一の素材を得るには至っていません。量子ドットは、これらすべてのニーズを同時に満たす可能性のある新たな発光団です。

量子ドットの外観と量子ドットLED構造

図1:ヘキサンに分散させた蛍光CdSe量子ドットのバイアル。量子閉じ込め効果を示しており、量子ドットサイズは、左から右の方向に、2 nm(青色)~8 nm(赤色)となっています。CdSeは、断面図で示したQD Vision社の素子構造(中央)に使用できる量子ドット材料の一例です。素子にはわずか1層の量子ドットが使用されており、素子の動作電圧を低く維持したまま、量子ドット発光量を飽和させることが可能です。:PbSe 量子ドット単一層の原子間力顕微鏡(AFM)写真。軍事分野や通信分野での幅広い用途で有用な赤外線発光素子内部の量子ドット単一層のナノスケール形態を示しています。

さらに量子ドットは、スピンキャスト法、Langmuir-Blodgett法、ドロップキャスト法などの溶液薄膜堆積技術と共に使用できるため、製造を効率的に行うことが可能です。これらの技術はアディティブ法にも応用できるため、ディスプレイ製造において工程が減り、コストを削減することが可能です。しかし、これらの方法は、量子ドットを堆積する基板を制限し、量子ドット層を横方向にパターン化できず、多くの場合ハイブリッド素子の残りの部分を構成する低分子輸送層材料と共には使用できません。これらの課題は、コンタクトプリント法により回避できます。この量子ドット固体の乾式堆積技術により、素子製造中に溶媒や不純物が素子基板に接触することが一切なくなり、さらに量子ドットの追加的な堆積やパターン化した堆積が可能となります。そのため、高速、高スループット、高収率な単一工程の量子ドット堆積処理も夢ではなく、FPD製造費を大幅に削減できると期待されています。

QD Vision社の量子ドットLED技術を用いた試作ディスプレイを図2に示します。赤色と緑色を鮮明に発色する対角1.4インチのサイズの64 × 32ピクセルのモノクロパッシブマトリクス型ディスプレイが既に開発されています。これらは携帯電話ディスプレイ向けに開発され、厚さが1.5 mm(16分の1インチ未満)と極めて薄いという特性から、現在人気のあるスリム型の携帯電話にうってつけです。

試作した量子ドットディスプレイの写真

図2QD Vision社の試作量子ドットディスプレイの写真。試作品はコンタクトプリント法で作製し、対角1.4インチスクリーンの全範囲で高い均一性が得られています。

量子ドットLEDの理論的な性能限界は、他のあらゆるディスプレイ技術と同等か、それを上回ります。燐光性有機ELは、あらゆる無反射ディスプレイ技術の中で効率が最も高いことが明らかですが、量子ドットLEDは、その燐光性有機ELの発光効率を20%上回り、電力消費を大幅に低下できる可能性を持っています。量子ドットは発光スペクトルが狭いため、色域が極めて広くなります。これにより、量子ドットディスプレイは、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)よりも色飽和度を高められる可能性があります。量子ドットLEDは無機発光体であるため、ほとんどの有機発光材料よりもはるかに安定です。量子ドットLEDは、明るく高効率で長寿命であるため、液晶ディスプレイや有機EL、プラズマディスプレイとは大きく差別化されます。

参考文献

1.
Coe-Sullivan S, Steckel JS, Woo W, Bawendi MG, Bulovi? V. 2005. Large-Area Ordered Quantum-Dot Monolayers via Phase Separation During Spin-Casting. Adv. Funct. Mater.. 15(7):1117-1124. https://doi.org/10.1002/adfm.200400468
2.
Alq3 tris-(8- hydroxyquinoline) aluminum, and N, N’-diphenyl-N, N’-bis (3- methylphenyl)-(1,1’-biphenyl)-4,4’-diamine, respectively..
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