seMpai:高い溶解性を有するTokeOni類縁体
はじめに
生体組織で進行する生命現象を非侵襲的かつ高感度に可視化できる生物発光イメージングは、この10年程の間に、生物医学研究に不可欠な技術となった1-3。マウスなどの小動物の生物発光イメージングには、ホタルルシフェラーゼ(Fluc)とD-ルシフェリンを用いた発光システムが長らく用いられてきたが、可視領域の発光(最大発光波長 λmax = 560 nm)を利用するため、組織中のヘモグロビンやメラニンに吸収されやすく4,5、生体深部組織のイメージングに課題を残していた。そのため、生体組織透過性に優れる近赤外領域(>650 nm)の光を生成する生物発光システムの開発が進められてきた。電気通信大学の牧らは、Flucと反応して、近赤外発光(λmax= 677 nm)を生成する合成基質「TokeOni(AkaLumine-HCl、808350)」を見出した6。TokeOniによって生成される近赤外発光は、生体深部組織を高感度に観察できる7。しかし、TokeOniはPBSのような中性pHの緩衝液に溶解度が低く(< 1 mM)、滅菌水には高濃度に溶解するが溶液のpHが酸性になるため、幾つかの生物学的実験に適していなかった。
seMpaiを用いたイメージング
そこで開発された合成基質が「seMpai(902268)」である。seMpaiは、TokeOniと同様にATPとマグネシウムイオン存在下で、Flucとの反応から近赤外発光(λmax = 675 nm)を生成する(図1)。また、中性pHの緩衝液へ高い溶解性(> 60 mM)を示し、-80℃で長期間保存可能である。
図1seMpai(902268)とD-ルシフェリン、TokeOni(808350)の化学構造と発光スペクトル
肺転移モデルマウスを使った評価から、seMpaiはD-ルシフェリンよりも高感度な深部組織のイメージングを可能にすることが明らかになり(図2)、その感度はTokeOniと同等であった8。これら結果から、seMpaiは生物学実験により適した近赤外発光基質といえる。
図2seMpaiによる肺転移病巣の高感度イメージング。D-ルシフェリンもしくはseMpaiを投与(120 μmol/kg)して15分後に撮像した代表的なイメージを示した。マウス肺転移は、B6アルビノマウスへのLLC/Fluc細胞の静脈内注射の2週間後に確認された。
イメージング プロトコール
seMpaiをリン酸緩衝生理食塩水(pH = 7.4)に30~60 mMの濃度で溶解し、使用前に-80℃で保存する。腫瘍を有するマウスにseMpaiを腹腔内投与する(120 μmol/kg)。腫瘍病変からの生物発光シグナルは、典型的には、基質投与の10~15分後にピーク強度を示す。腫瘍を有するマウスモデルにおける生物発光シグナルの経時変化を解明するためには、予備実験が推奨される。
References
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