単分散ナノダイヤモンドとその応用
Dr. Olga A. Shenderova1,2,3,
1Department of Materials Science and Engineering, North Carolina State University, Raleigh, NC, USA, 2International Technology Center, Raleigh, NC, USA, 3President, Adámas Nanotechnologies, Inc., Raleigh, NC, USA
はじめに
多様なナノ材料の中でも、サイズが10 nm未満のナノ粒子は最も注目されている材料の一つです。ただし、粒子の最終的な構造や構造安定性が表面原子の特性に大きく左右されるため、その製造には多くの課題が残っています。「一桁」サイズのナノ粒子の効率的な製造が実現した場合には、新たな市場が生まれます。例えば、50 nmの粒子と比較して、5 nmの粒子は10倍の比表面積と吸収能を有しています。さらに、ポリマーマトリックス中の5 nmの粒子間距離は1 vol%の場合に20 nm前後で均一に分散し、この粒子間距離はポリマー鎖の慣性半径と同程度です。同量の100 nmの粒子を充填した場合、粒子間距離は数百ナノメートルまで増加し、ポリマー鎖の慣性半径よりも大幅に長くなります。その結果、複合材料の機械的性質に与える効果は小さくなってしまいます。実際に、「一桁」ナノ粒子は血液脳関門を通過できると考えられており、ナノ医薬品において特別な役割を果たすことが期待されています1。
マクロサイズのダイヤモンドはその輝きと美しさで人々を魅了するだけでなく、最も高い硬度および熱伝導率を示し、また高い光学透過率の領域が最大などの優れた技術的特性も有しています。同様に、ダイヤモンドナノ粒子(ND:nanodiamond、ナノダイヤモンド)は、ドーピングにより非常に優れた機械的性能、耐化学性、生体適合性、磁気光学的性質および電子的性質などの特性が得られることから、最も影響力の大きいナノ材料であると言えます。ナノダイヤモンドの合成法は様々ですが、50年以上も前に発見された最初の方法2,3で直径4~6 nmのNDが得られます。この方法では、炭素の酸化を防ぐために酸素欠如環境下で炭素を含有する火薬を爆発させます。爆発で生じる高温高圧がダイヤモンドの生成に適した条件を生み出します。また、爆発はミリ秒未満しか持続しないため、NDの成長時間が大幅に制限され、数ナノメートルの粒子が得られます。しかし、合成中にナノダイヤモンドが衝突、融合するため、爆発法(爆轟法)ナノダイヤモンド(DND:detonation nanodiamond)は一次粒子が強く凝集して分離が困難な集合体を形成します。市販されている爆発法ナノダイヤモンドが一次粒子のサイズに基づいて「5 nmナノダイヤモンド」と表示されている場合でも、実際にはかなりの確率でより大きな凝集体が含まれています。この一般的な誤解は非常に長い間この分野の発展の妨げとなっており、経験の浅い研究者がいまだに遭遇する問題でもあります。
爆発法ナノダイヤモンドの製造は過去50年間で大幅な進展が見られましたが、最大の課題の1つは、合成時に形成される200~300 nmの凝集体から一次粒子(約5 nmのサイズ)を分離する点にあります。2005年になって初めて、ビーズミルによって固い凝集体から一次粒子の分離が可能となりました4。これら「一桁」ナノダイヤモンド粒子は、材料科学、電子工学、光学およびライフサイエンスの用途において幅広い新たな機会を広げています5。
単分散ナノダイヤモンドの性質、構造的特徴、および用途
単分散一桁ナノダイヤモンド粒子の最も重要な特徴および関連する性質を図1にまとめました。これらの際立った構造的特徴がナノダイヤモンドの独自性に寄与し、またその特性が多様な用途をもたらします6。現在、「一桁」ナノダイヤモンド粒子の大規模生産が可能な製造法は主に爆発法です。そのため、以下で議論する用途は「一桁」爆発法ナノダイヤモンド(DND)に関連するものです。
図1DND一次粒子の主な特徴と特性および用途
結晶格子内の炭素原子間の強い共有結合のため、ナノダイヤモンドは既知材料の中で最高の原子密度を示します。この高い原子密度の結果、様々な環境下で安定性を示す、最も硬く、化学的に不活性な材料が得られます。爆発法ナノダイヤモンドは酸性および塩基性環境下で安定で、また、真空中では広範囲の黒鉛化を起こすことなく約800℃まで加熱可能であり、大気中では約450℃まで燃焼に耐えます。ダイヤモンドのマイクロおよびナノ粒子は、耐摩耗性と硬度が高いため研磨剤として長く使用されてきました。ナノダイヤモンドの高い化学的安定性は過酷な環境での用途において有用であり、例として、マイクロエレクトロニクス処理では、化学気相成長法(CVD)によるダイヤモンド薄膜成長のシードとしてNDが使用されます。潤滑油の添加剤として使用した場合、表面の精密研磨により摩擦が低減し、ディーゼル車およびガソリン車の燃費向上を促進します7,8。このように、NDと他のナノ材料との違いを特徴付ける主要な構造的特徴はそのコアです。また、大きなバンドギャップや紫外から赤外域のスペクトル範囲に及ぶ透明性といった優れた光学的特性の基礎となっているのもナノダイヤモンドの構造です。さらに、結晶コアはダイヤモンドの大きな屈折率(約2.4)の要因でもあり、NDの強い光散乱が、日焼け止めやポリマーコーティング用途における非毒性UV遮蔽ナノ添加剤としての有用性をもたらします9。
炭素配置がダイヤモンドの機械的性質を強化するのと同様に、炭素格子ネットワーク内の欠陥も他にない優れた性質を与えます。たとえば、窒素を基盤とした色中心を有するダイヤモンドは蛍光特性を示します10。爆発法ナノダイヤモンドは爆発物由来の窒素を不純物として含むものの、通常のDNDは窒素量が過剰であるため、光学的に活性な色中心は形成されません。しかしながら、色中心を含むDNDの製造可能性は引き続き模索されています2。光学活性を有する蛍光性欠陥中心だけでなく、ホウ素ドープにより得られる導電性ナノダイヤモンドも技術的に非常に重要です。また最近では、DNDコアにトリチウムをドープすることで、標的タンパク質による修飾や薬物搭載に利用可能な表面を維持したまま、バイオイメージング向けに放射性標識された非常に安定なナノダイヤモンドを得る方法も、注目されています11。
ナノダイヤモンド粒子に見られるサイズと形状の特徴は、多くの用途で活用されています。爆発法ナノダイヤモンドの一次粒子のサイズは4~6 nmで、通常はほぼ球形です(図2を参照)2。この制御された形状とサイズは大きな比表面積(300~400 m2/g)を必要とする用途に理想的で、たとえば、吸着性分子の担持12や、NDナノ充填材と周囲のポリマーマトリックス間の結合による高密度ネットワークの形成13に最適です。球状粒子は基本的に潤滑および研磨の用途でより大きな効果を示すことから7,8、ナノダイヤモンドは原理的にナノスケールのボールベアリングとして機能します。また、生物学的用途では、制御されたサイズと形状が、薬物送達またはタンパク質吸着における担持容量向上に効果的であると予想されています12,14。また低い細胞毒性を示す真に10 nm未満の粒子が必要な用途において、爆発法ナノダイヤモンド一次粒子は同程度の粒径の材料に対して明らかな利点があります。DND一次粒子は本来非毒性ですが、実際の毒性はsp2炭素および金属類をどの程度精製できるに依存し、また、用いる細胞の種類によっても変化します15。
図2ナノダイヤモンド粒子の特性:(a)高解像度透過電子顕微鏡画像。(b)ラマンシフト。ナノダイヤモンドを示す1326 cm-1の明瞭なピークが見られます。(c)脱イオン水に分散した4~6 nmのND粒子の高い単分散性を示す、動的光散乱解析による粒子サイズの体積分布。
爆発法ナノダイヤモンドは親水性であるため、酸化によるsp2炭素の除去で、酸素を含む官能基で表面が被覆されます2。凝集体から分離した一次粒子に酸処理を行うと、ゼータ電位が約-45 mVのカルボキシル化ND(4~6 nm)が得られ、多様な極性溶媒に分散させることができます12。粒子の化学的還元により、表面に多数の水酸基を有するゼータ電位が約+30 mVのND(4~6 nm)が得られます16。ゼータ電位の値は、標的の吸着性分子との静電相互作用や細胞との相互作用を制御するために重要です(細胞膜の表面は負の電荷を帯びています)12。用途に合わせてナノダイヤモンド表面の官能基化を制御可能な、興味深い方法がいくつか開発されています。例えば、バイオ用途向けにビオチン、ストレプトアビジン、核酸などを結合させるためのアミノ基を表面に有するナノダイヤモンドがあります2,3,15。このような表面官能基化で、幅広い種類の官能基でNDを修飾することが可能になり、in vitroおよび/またはin vivoでの標的送達やバイオイメージングなどの用途に使用することができます14,15。
溶媒中の単分散ナノダイヤモンド粒子
ユーザーの観点からは、用途に適した溶媒に分散した、表面の官能性が明確な一桁ナノダイヤモンドの利用が重要となります。したがって、幅広い範囲の溶媒を用いた一次DND粒子の安定なコロイド分散液の開発が必要不可欠です。表面官能基(カルボキシル基、水酸基またはその他特定の官能基)を制御することで、ナノダイヤモンドと他の媒体(溶媒またはポリマー)との相互作用をより簡便に予測できるようになります。ポリマーとの混合の際の凝集に関連した問題はありますが、用途に合わせた表面官能基化により、分散を促進できると推測されます。図3に示すように、約4~6 nmの爆発法ナノダイヤモンド一次粒子を複数の溶媒中で安定化することが可能で、各種用途で使用されます(詳細は表1を参照)。
図3各種溶媒中に安定に分散したDND一次粒子の懸濁液(wt/v%)。溶媒(左から右):脱イオン水、グリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、エチレングリコール(EG)、ポリアルファオレフィン(合成油、PAO)、ケロシン(灯油)。
まとめ
ナノダイヤモンドの用途(潤滑剤や研磨剤、電気めっき膜の充填材、機械的性質および耐熱性を強化したポリマーコーティング、耐放射線性材料、紫外線カット化粧品など)は、非常に優れたバルク特性に基づいています。一方、生体分子の固定化、薬物送達、複合材料といった用途はナノダイヤモンドの表面特性に基づいています。これらユニークなバルク特性と表面特性の組み合わせが、ナノダイヤモンドを多用途性に極めて優れた材料としています。ナノダイヤモンドの重要な応用例には、薬物送達14,15、ポリマーの性能向上2,13、CVDダイヤモンド膜の高密度核生成および成長2、および、油や潤滑剤、燃料の添加剤7,8、触媒担体2、抗細菌性および抗真菌性コーティング2としての使用などが挙げられます。化学的および機械的性質に極めて優れ、粒径が小さくほぼ球形であることから、ナノダイヤモンドは上記の用途に理想的な材料の候補といえます。
References
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