- ジゴキシゲニン(DIG)による標識と抗DIG抗体
- PCRによるDIG DNAの標識
- DIGランダムプライミングによるDNAの標識
- ニックトランスレーションによるIn Situプローブ用二本鎖DNAの標識
- 転写によるRNAプローブの標識
- DIGオリゴヌクレオチドの5’末端標識、3’末端標識、3’テール標識
- 直接検出手法によるプローブ収量の推定
- DIG関連のダウンロードと関連資料
ジゴキシゲニン(DIG)による標識と抗DIG抗体
DIGシステムは、幅広い用途で核酸の標識と検出に使用されている非放射性テクノロジーであり、ジギタリス属の植物(ジギタリスプルプレアとジギタリスラナタ)から分離されたステロイドに基づいています。ジギタリス属の植物はジゴキシゲニンの唯一の天然源であるため、抗DIG抗体は他の生物材料に結合せず、特異的な標識が保証されます。このように特異性が高いDIGシステムは、放射性標識に比べて必要な材料が少なくて済み、核酸ハイブリダイゼーション分析に理想的です。固定化核酸はDIG標識プローブを使用してハイブリダイズされ、その後の検出は、アルカリホスファターゼ(AP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインまたはローダミンと結合した高親和性抗ジゴキシゲニン抗体を使用して比色検出、化学発光または蛍光検出を行います。
図1.化学発光基質を使用してDIG標識核酸を検出する例
PCRによるDIG DNAの標識
PCR標識は、テンプレートが少量しかない、部分的にしか精製されていない、または非常に短いといった制限がある場合に、DIG標識プローブを調製する有効な手法です。他の手法よりも至適化の要件が厳しくないうえ、標識プローブを高い収量で産出できます。PCR標識では、熱安定性ポリメラーゼがDIG-dUTPを組み込んで、テンプレートDNAの特定領域を増幅します。その結果、特異的で、感度の高い標識用途に適したハイブリダイゼーションプローブが産生されます。
反応の原理
Digoxigenin-11-dUTPは、新しく合成されたDNAに通常のPCR反応を通して取り込まれます。唯一の前提条件は、適正なプライマー合成のために、標的の配列情報が必要となることです。非放射性DIGシステムで、ステロイドハプテンであるジゴキシゲニンを使用して、ハイブリダイゼーションおよびその後の発色/発光検出に用いるDNA、RNA、またはオリゴヌクレオチドを標識します。ジゴキシゲニンは、アルカリに不安定なエステル結合を介してdUTPと結合します。標識dUTPは、DNAポリメラーゼを使用した酵素的な核酸合成によって簡単に取り込むことができます。非放射性標識とPCR反応の組み合わせは、PCR産物の分析に加え、限られた標的配列からの標識プローブ調製のための強力なツールとなります。
PCRによるDIG DNAの標識の特長と利点
PCRの条件
- DIGの取り込みを試行する前に、各テンプレートおよびプライマーセットのPCR増幅パラメータ(サイクル条件、テンプレート濃度、プライマー配列、プライマー濃度)をDIG-dUTP非存在下で至適化しておきます。
テンプレート
- 最良の結果を得るため、クローン挿入物をテンプレートとして用います。ゲノムDNAは取り扱いが困難な場合があります。
- テンプレート濃度は、特異的なプローブを産出できるかどうかを左右します。
標識
PCR DIGプローブ合成キットは、Expand High Fidelity Enzyme Blendを含んでいるため、他の標識手法と比べて至適化の必要が少なくて済みます。この酵素ブレンドの利点には以下が含まれます。
- GCリッチな領域をテンプレートとして効率的に使用できる
- ほとんどのテンプレートでMgCl2濃度の至適化が必要とならず、標識反応には標準的な濃度の1.5 mM MgCl2で十分である
DIGランダムプライミングによるDNAの標識
「ランダムプライミング」によるDNA標識手法では、可能な限りのヘキサヌクレオチドの混合物がDNAテンプレートに対してハイブリダイゼーションされます。すべての配列の組み合わせがヘキサヌクレオチドプライマー混合物で表されるため、テンプレートDNAへのプライマーの結合が統計的に行われます。そのため、テンプレートDNAの全長で均一の標識が保証されます。相補鎖は、標識グレードのKlenow 酵素を使用して、ランダムヘキサヌクレオチドプライマーの3' OH末端から合成されます。反応中に存在した修飾デオキシリボヌクレオシド三リン酸([32P]-、[35S]-、[3H]-、[125I]-、ジゴキシゲニンまたはビオチン標識)は、新しく合成された相補DNA鎖に組み込まれます。
これらの標識プローブは、ゲノムサザンブロット、組換えライブラリーのスクリーニング、ドット/スロットブロット、およびノーザンブロットによるシングルコピーの遺伝子検出に特に適しています。各プライマーは異なる6塩基配列を有するため、標識プローブ産物もまちまちな長さを持つ断片となります。そのため標識プローブは、ゲル上の固有のバンドではなく、スメアとなって現れます。標識プローブのサイズの分散は、元となるテンプレートの長さによって決まります。
反応の原理
ランダムプライミングによる標識では、6量体プライマーとアルカリ不安定DIG-11-dUTPの存在下で、Klenow酵素によってDNAテンプレートが複製されます。平均的に、Klenow酵素は20~25のヌクレオチド配列ごとにDIG部位を1つ挿入します。結果として得られる標識産物は、0.10~0.03 pgのターゲットDNAを検出できる、均一かつ高感度のハイブリダイゼーションプローブとなります。
ニックトランスレーションによるIn Situプローブ用二本鎖DNAの標識
ニックトランスレーション法は、Mg2+が存在する低酵素濃度の条件下で、ランダムに分布したニックをDNAに取り込むDNase Iの能力に基づいています。大腸菌DNAポリメラーゼIは、ニックの3'-OH末端をプライマーとして使用して、5'→3'方向で完全な鎖に相補的なDNAを合成します。DNAポリメラーゼIの5'→3'エキソヌクレアーゼ活性は、合成方向のヌクレオチドを同時に除去します。ポリメラーゼ活性は、除去されたヌクレオチドを、同位体標識またはハプテン標識されたデオキシリボヌクレオシド三リン酸で順次置換します。低温(15℃)条件下では、反応に含まれる非標識DNAが、新しく合成された標識DNAに置き換えられます。in situハイブリダイゼーション手順で得られる標識断片の長さは、約200〜500塩基になります。
転写によるRNAプローブの標識
用途によっては、DIG標識RNAがDIG標識DNAよりも効果的なハイブリダイゼーションプローブとなります。たとえば、DIG標識RNAプローブは、ナノグラム量のトータルRNA中から希少なmRNAを検出できます。標識RNAプローブは、DNAテンプレートからのin vitro転写によって合成されます。RNA転写法では、さまざまなRNAポリメラーゼ(T7、SP6、T3 RNAポリメラーゼなど)のプロモーター間にある転写ベクターのマルチクローニングサイトにDNAがクローニングされます。その後テンプレートは、(挿入部位に近い)適切なベクターの部位で開裂し、直鎖化されます。RNAポリメラーゼは、(DIG-UTPを含む)リボヌクレオチド混合物の存在下で、DNAインサートをアンチセンスRNAコピーに転写します。反応が起こっている間、DNAは何度も(最大100倍)転写され、大量の完全長DIG標識RNAコピー(標準の反応では、1 µgのDNAから10〜20 µgのRNA)が生成されます。DIGは約25〜30塩基ごとにRNAに取り込まれます。
反応の原理
転写されるDNAテンプレートは、SP6/T3およびT7 RNAポリメラーゼのプロモーターを有する適切な転写ベクターのポリリンカー部位にクローン化されます。適切な部位でテンプレートDNAを直鎖化させた後、DIG-11-UTPの存在下でRNAが転写されます。標準的な条件下では、1 µgのテンプレートから約10 µgの完全長DIG標識RNAが転写されます。
RNAプローブ標識を成功させるには、次のヒントに従うことが重要です。
RNase
RNaseは遍在性が高く、活性に補因子を必要としません。実験を成功させるには、RNaseのコンタミネーションを回避する必要があります。以下に例を示します。
- 使い捨てのプラスチック容器、オーブンで除染したガラス容器、あるいはRNase ZAPなどの試薬で除染済みのプラスチック容器を使用することをお勧めします。
- あらゆる溶液をジエチルピロカーボネート(DEPC)または二炭酸ジメチル(DMDC)で処理した水で調製し、オートクレーブ処理します。
- 実験中は実験用手袋を着用してください。
- 標識効率はDNAテンプレートの純度に大きく左右されます。テンプレートの純度を高く保ってください。
- 最終的なテンプレートは直鎖化し、フェノール/クロロホルムで抽出して、エタノールで沈殿させる必要があります。
テンプレート配列
- DNAテンプレートの一部のプライマー/ポリリンカー領域は、リボソームRNA配列(28sや18s)の一部との相同性があります。そのため、これらの顕著なRNAを含むサンプルでは、特異性があるが望ましくないシグナルが標識プローブによって生成される可能性があります。この影響を最小限に抑えるには、できるだけ多くのポリリンカー配列をテンプレートから除去します。
- PCRを使用してDNAテンプレートを調製している場合、Expand High Fidelity システムを使用した反応の産物には、単一の3' A末端にオーバーハングを有する断片が含まれます。このオーバーハングによって、転写標識の反応中にラップアラウンド産物が生成される可能性があります。
テンプレート長
- 至適テンプレート長:約1 kb
- 最短テンプレート長:200 bp
プローブの保存
- 長期的な安定性を確保するには、RNAプローブをアリコートに小分けして-20℃または-70℃で保存する必要があります
- エタノール中のDIG標識RNAプローブは、-20℃または-70℃で少なくとも1年間安定しています。
プローブの感度
- DIG標識アンチセンスRNAプローブの感度をすばやく特定するには、対応するセンスRNA(非標識)をin vitro転写で調製します。次に、さまざまな濃度の精製センス転写産物をノーザンブロットのターゲットとして使用します。ブロットの結果から、標識プローブ(アンチセンス転写産物)で検出できるターゲット(センス転写産物)の最小量を簡単に特定できます。
DIGオリゴヌクレオチドの5'末端標識、3'末端標識、3'テール標識
in situハイブリダイゼーションなどの一部の用途では、DIG標識合成オリゴヌクレオチドが最良のハイブリダイゼーションプローブとなります。DIG標識オリゴヌクレオチドは、in situハイブリダイゼーション以外にも、ドット/スロットブロット、ライブラリースクリーニング、サザンブロットでの反復遺伝子配列の検出、ノーザンブロットでの豊富なmRNAの検出などのさまざまな用途で、ハイブリダイゼーションプローブとして使用できます。
DIG標識オリゴヌクレオチドを用いた手法の代表的なパターンを以下に示します。
DIG-NHS-Esterによるオリゴヌクレオチド5'末端標識
DIG-ddUTPによるオリゴヌクレオチド3'末端標識
DIG-dUTPおよびdATPの3´末端の付加(約40〜50残基)
図2.非放射性オリゴヌクレオチドのテーリングと検出
直接検出手順によるプローブ収量の推定
ハイブリダイゼーションに正しい量のプローブを付加するには、まず、標識反応で生成されたDIG標識プローブの量を特定する必要があります。ここに示す直接検出手順では、標識プローブから調製した一連の希釈液中のDIG標識の量を、既知の濃度のDIG標識コントロール核酸と比較します。
注記:DNAプローブをPCRで標識する場合、収量を評価するために直接検出を実施する必要はありません。
PCR標識のプローブでは、ゲル電気泳動による評価法を使用してください。
直接検出では、次の手順を実行します。
- DIG標識プローブの段階希釈を調製し、ナイロンメンブレンに液滴します(所要時間:15分)
- 発光基質溶液を用いてDIG検出を行います(所要時間:2~2.5時間)
DIG関連の資料ダウンロード
詳細については、以下のカタログを参照してください。
詳細な技術情報は、以下のDIGマニュアルに記載しています。
- DIG Application Manual for Filter Hybridization
- DIG Application Manual for Nonradioactive In Situ Hybridization, 4th edition
DIGシステムの取り扱いについては、以下のテクニカルヒントを参照してください。
ライフサイエンス研究のみを目的としており、診断目的として使用できません。
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