細胞内局在性の研究の必要性
特定のタンパク質の細胞内部位を調べる主な理由の一つは、その部位が機能と密接に結びついていることが多いためです。たとえば、核に存在するタンパク質は遺伝子制御に、ミトコンドリアにあるタンパク質はエネルギー産生に、またゴルジ関連のタンパク質はタンパク質修飾や選別にしばしば関与します。細胞内部位の情報は、タンパク質の機能特性の解明に加えて、タンパク質相互作用の研究にも役立つ可能性があります。2つのタンパク質が相互作用するための必要条件は、これらが同じ規定の部位に存在することです。したがって、タンパク質の細胞内部位を知ることは、そのタンパク質の機能および可能性のある相互作用パートナーを理解するための重要なステップです。
Human Protein Atlasプロジェクト
Human Protein Atlas(HPA)プロジェクト(proteinatlas.org)は、抗体ベースのプロテオミクスを用いてヒトプロテオームをゲノムに基づいて体系的に調べられるようにするために、2003年に発足されました1。これを実現できたのは、ハイスループットのPrestige Antibodies®生成に、大量のヒト組織および細胞のタンパク質プロファイリングを組み合わせたことによります。免疫組織染色では詳細な細胞内レベルの空間的な情報を得ることが困難なため、蛍光標識された抗体を用いた共焦点顕微鏡で解析を行う発現プロファイリングにまで拡大されてきました2,3。毎年、約2,500の新しいタンパク質の発現データと局在性データが追加されます。ヒトプロテオームの空間的な発現プロファイルの最初のドラフトは、2015年までに完了しています。
Human Protein Atlasにおける免疫蛍光(IF)解析
細胞内タンパク質アトラスの実現を目標として、達成し得る最高レベルの空間分解能を合理的なスループットで得るために、共焦点顕微鏡が画像化システムとして選択されました。また、U-251 MG(神経膠腫)、U-2 OS(骨肉腫)およびA-431(上皮がん)の3種類のヒト細胞株と、DAPIによる核の染色、抗体による微小管(抗チューブリン)および小胞体(抗カルレティキュリン)の染色という3種類の細胞小器官マーカーがこの取り組みのために選択されています。これらのマーカーは、サンプルの固定、透過処理および免疫染色4のコントロールとしての役割を果たすとともに、細胞内部位を指定するための画像アノテーションのガイドとしても役立ちます。2012年に開始された細胞株パネルは、さらに8種類の細胞株を追加して拡大されています。現在は、各抗体に適した2種類の細胞株が、免疫蛍光分析のためにRNAシーケンシングデータに基づいて細胞株パネルから選択されています。1つの細胞株のヒトプロテオーム全体の局在性を細胞内レベルで評価するために、各抗体には常にU-2 OSが3番目の細胞株として選択されます。
抗体の希釈と免疫染色の手順は自動化されており、さらに手動で共焦点顕微鏡画像が取得されアノテーションが付与されてから、文献との比較が行われます。アノテーションが付与される細胞内部位は16か所あり(図1)、染色は4段階スケールに基づく強度スコアリングによってさらに分析され、染色特性が指定されます。
図1.Human Protein Atlasポータルのタンパク質ターゲットは、16か所の細胞内区画、つまり核(HPA002844)、核膜(HPA001209)、核小体(HPA003436)、細胞質(HPA001290)、アクチンフィラメント(HPA006035)、接着斑部位(HPA001349)、ゴルジ体(HPA000992)、 微小管(HPA006376)、アグリソーム (HPA027420)、細胞膜(HPA001672)、細胞間結合(HPA030411)、中間径フィラメント(HPA000453)、ミトコンドリア(HPA000898)、小胞(HPA002290)、中心体(HPA003647)および小胞体(HPA003906)のうちの1つまたは複数に割り当てられている。HPA製品番号は、画像に使用しているPrestige Antibodies®のものである。Prestige Antibodies®染色は緑色、核染色は青色、微小管染色は赤色で示している。
図2は、核の染色パターンの違いを示しています。8種類のタンパク質が核、核小体または核膜に局在し、平坦、粒状、斑点状、および塊状などのさまざまな染色特性を示しています。
Human Protein Atlasポータルでは、6~12の細胞をそれぞれ含む2つの画像が、各Prestige Antibodies®と細胞株に対して表示されます。画像をクリックすると高解像度で表示されます。また、青色、赤色および黄色の各マーカーを表示するために、3つの異なるチャンネルをクリックすることができます。抗体の染色は緑色で示しています(図3)。
図3.抗ZYX(HPA004835)によるA-431細胞の接着斑の染色を示す。各チャンネルをクリックすると、1つまたは複数のマーカーを画像に表示できる。A)緑色で示される抗体の染色、B)青色のDAPI核染色の追加、C)赤色の微小管染色の追加、およびD)黄色の小胞体(ER)染色の追加。
各細胞株には、観察された染色のバリデーションスコアが割り当てられ、UniProtKB/Swiss-Protデータベース内の適用可能な実験的遺伝子/タンパク質特性のデータとの一致率に基づいて、検証済み、未定、または未検証のいずれかに分類されます。抗体の約30%は検証済みとしてスコアリングされます。つまり、利用可能な細胞内局在性情報として一致しています。細胞内位置が割り当てられた遺伝子の60%は、参照文献が十分に見られないため、その抗体の結果は未定とスコアリングされています。
HPA IFプロトコル
一次抗体:一般的な使用濃度1~4 µg/mLのAtlas抗体。1,000倍に希釈したニワトリ抗カルレティキュリンポリクローナル抗体。1,000倍に希釈したマウス抗αチューブリンモノクローナル抗体。
二次抗体:800倍に希釈したAlexa Fluor®555ヤギ抗マウスIgG。800倍に希釈したAlexa Fluor®647ヤギ抗ニワトリIgG。800倍に希釈したAlexa Fluor®488ヤギ抗ウサギIgG。Alexa Fluor®はInvitrogenの登録商標です。
- 洗浄はすべて室温で行います。
- マルチウェルガラスボトムプレートを、フィブロネクチン(濃度12.5 µg/mL)により室温で1時間コーティングします。
- 細胞を播種(1ウェルあたり10,000~15,000細胞)してから、5.2% CO2、加湿空気中の37℃で4時間以上インキュベートします。
- 培養培地を除去してから、PBS(8.1 mM Na2HPO4、1.5 mM KH2PO4、137 mM NaCl、2.7 mM KCl、pH 7.2)中で細胞を洗浄します。
- 10% 胎児ウシ血清(FBS)を添加した培養培地に、氷冷した4%パラホルムアルデヒド(pH 7.2~7.3)で、細胞を15分間固定します。
- 0.1% Triton® X-100を含むPBSによる5分間の細胞透過処理を3回繰り返します。
- 細胞をPBSで洗浄したのち、4% FBSを添加したPBSで希釈した一次抗体により4℃で一晩インキュベートします。
- 翌日、細胞をPBSで10分間、4回洗浄したのち、4% FBSを添加したPBSで希釈した二次抗体により室温で1.5時間インキュベートします。
注記:二次抗体は蛍光標識されているため、光に反応します。サンプルは、以降の各ステップを含めて薄暗い環境に置いておく必要があります。
- PBSで希釈したDAPI 0.6 µMで細胞の核を4分間対比染色します。
- 細胞をPBSで10分間、4回洗浄したのち、グリセロール+10% 10xPBSに細胞を封入します。
まとめ
- 細胞内局在性の研究は、タンパク質の機能と相互作用を解明するための重要なステップです。細胞内局在性のアノテーションが付与されたIF画像をHuman Protein Atlasポータルから自由に入手できます。
- Human Protein Atlasプロジェクトでは、3種類のヒト細胞株の共焦点顕微鏡解析により、ターゲットタンパク質の細胞内局在性情報を取得しています。各ターゲットタンパク質は、手動アノテーションにより16か所のオルガネラのうちの1つまたは複数に割り当てられています。
- Human Protein Atlasポータルで表示されるすべてのIF画像は、マルチカラー画像内でクリック可能なチャンネルとして表示される各種オルガネラプローブを用いて可視化されます。
参考文献
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