受託ポリクローナル抗体作製:技術情報
Sigma-Aldrichでは、輸送中および長期保存時の血清の品質劣化を防ぐために、防腐剤としてプロクリンを添加した生血清状態でのお届けを標準としています。
精製済みの抗体(ペプチドカラム精製、ProteinA精製等オプション)につきましては、50%グリセロール、0.05%プロクリン(プロクリン 300 15ppm)で発送しています。到着後は、直ちに小分けし、-20℃または-70℃にて保存をお願いいたします。
また、0.1mg/mL程度のBSAを安定剤として添加することが有効な場合がございます。必要に応じて添加ください。
抗体の保存可能期間は、それぞれの抗体の力価によって変化する場合がございます。長期間保存する場合は、小分けし、-70℃での保存をお願いいたします。
もし抗血清を硫安塩析された場合、通常、免疫染色やウエスタンブロッティングでは、硫安塩析状態のまま適切な濃度のPBS等に希釈するだけで、血清と同様に使用できます。ただし、抗体を精製するなどの場合は硫安を除去(脱塩)する必要があります。この作業は以下のいずれかをご使用下さい。
- (1) 透析膜による透析
- (2) 簡易ゲルろ過カラム
簡易ゲルろ過カラムを使用することで、短時間で簡単に脱塩を行うことができます。
脱塩を行う際は以下の点に注意してください。
- 実験に必要な量のみを脱塩するようお願いします。(例:血清10mL程度など)
- 脱塩後はすぐに、抗体の劣化が起こるものと考え、凍結融解の繰り返しを防ぐため小分けして保存する、0.05%プロクリン(プロクリン 300 15ppm)または、50%容量のグリセロールや0.02%アジ化ナトリウムを添加し、-70℃で保存する、などをお奨めいたします。ただし、アジ化ナトリウムはペルオキシダーゼを阻害するため、検討されている実験系にペルオキシダーゼ標識抗体などを使用する場合等は、ご注意ください。
- 脱塩後、0.1mg/mL程度のBSAを安定剤として添加することが有効な場合がございます。
卵黄抗体(IgY)の特長
- 抗体を多量に採取できます。
- 卵黄からの抽出操作が簡単に行えます。
ポリクローナル抗体の作成には、主にウサギやマウス血清が用いられますが、ニワトリの卵黄からも抗体(IgY)を多量に採取することが可能です。また、ニワトリの場合、哺乳類で保存性が高い配列でも抗体が得られる可能性があります。
抽出操作の手順
- 卵を割り、黄身のみをビーカーに取り分ける。キムタオルの上で数度転がし、出来るだけ白身を取り除く。重量および容量を記録する。
- 黄身の7倍(v/v)の蒸留水を加え、薬さじ等で静かに攪拌する。この際、黄身を包んでいる、薄い外膜は出来るだけ取り除く。
- 4℃で一晩放置
- 上清を回収し、ろ紙を用いてろ過する。沈殿物は捨てる。
- ろ液をマグネチックスターラーで攪拌しながら、硫安を33%になるように添加する。硫安を加える際には、1度におこなわず、4-5回に分けておこなう。
- 30分間攪拌した後、遠心する。(3000rpm,30min)
- 沈殿物にPBSを加えて溶解する(10ml~20ml/1卵黄)。
- 溶かした溶液に、再度硫安を18%になるように添加する。
- 30分間攪拌した後、遠心する。(3000rpm,30min)
- 沈殿物にPBSを加えて溶解する(2ml/1卵黄)。
- PBSにて十分に透析する 。
- 透析した試料を 280nm の波長で吸光度の測定をする。1mg/ml の IgY 溶液吸収はおよそ1.4です(ニワトリの場合)。
注1. ご希望のペプチドのN末端にCysを配置し、MBS法にてキャリアタンパク質とCysをコンジュゲーションさせます。ただしこの場合は、配列内部にCysを含まないことを前提とします。
注2. モノクローナル抗体作成の場合は、抗原として認識され、抗体価があがるまでの過程では、ポリクローナル抗体と同様ですが、クローニング過程のスクリーニングに、より高純度なペプチドを要求します。そのため、モノクローナル抗体作製の場合 90%以上の純度をお奨めいたします。
アプリケーションデータ
卵黄と血清のELISAによる抗体価比較
同一個体の、卵黄と血清の抗体価を比較しました。
卵黄
血清
※ 初期希釈倍率:1/300 初回免疫日から14、28、42日目の抗体価を測定しました。
ELISAの作業手順
- 卵黄からIgYを抽出
卵黄:純水=1:5で混合、撹拌後、4℃一晩静置。上清をろ過、さらに遠心分離して上清を回収。(IgYは水溶性なので、上清に含まれています。) - 抗体価測定(ELISA)
プレート: 発現タンパク溶液(10μg/ml PBS)100μlを固相
2次抗体: ALP標識抗ニワトリIgY
発色基質: pNPP
方法:プレートに希釈した抗体を加え、37℃1hr.
→Wash後、2次抗体を加え、37℃1hr.
→Wash後、発色基質を加え、37℃20min.
→O.D415を測定
※ IgY抽出液は既に1/6希釈されているので、卵黄と血清の希釈倍率が同じになる様、抽出液の初期希釈倍率を補正しています。
- ※初期希釈倍率:1/300 矢印は免疫日を表します。これにより、卵黄からも血清と同じレベルの抗体をなおかつ大量に得られることがわかります。
- ※ ただし、全ての抗原・個体において上記の様な結果が適応するとは限りません。
- ※ 北海道立滝川畜産試験場 研究部 家きん科長 大原睦生先生、北海道立新得畜産試験場 生産技術部 衛生科 小原潤子先生 のご好意により、データをご提供いただきました。
合成ペプチドを抗原とした場合、そのままでは抗原として認識され難いため、 KLH(Keyhole limpet hemocyanin)などの抗原性刺激のあるキャリアタンパク質に結合(コンジュゲーション)し免疫を行います。しかし、コンジュゲーションをすることにより、ペプチドに対する抗体の他にKLHに対する抗体も産生されます。このKLHに対する抗体をKLHカラムにより吸収し除去することで、KLHによる非特異的な反応を防ぐことが可能です。
fig1.ELISA
KLHの限定分解物を固相化
Plate: KLHの限定分解物固相(1μg/well)
- Well 1: 抗ペプチド血清(KLH Conjugate)
- Well 2: KLHカラム吸着処理×1回
- Well 3: KLHカラム吸着処理×2回
- Well 4: KLHカラム吸着処理×3回
- Well 5: KLHカラム吸着画分(抗KLH抗体)
fig2.Western Blotting
KLH限定分解物の12%SDS-PAGEをPVDF膜に転写、Western Blottongで抗KLH抗体画分を検出した結果。
(1次抗体)
- Lane 1,6: 抗ペプチド血清(KLH Conjugate)
- Lane 2,7 KLHカラム吸着処理×1回
- Lane 3,8 KLHカラム吸着処理×2回
- Lane 4,9 KLHカラム吸着処理×3回
- Lane 5,10 KLHカラム吸着画分(抗KLH抗体)
(2次抗体:ALP標識抗ウサギIgGで検出)
ペプチドに対する抗体は今や生命科学研究には不可欠となり、遺伝子産物の検出と同定、タンパク質プロセシング試験、診断的検査、タンパク質局在化、活性部位決定、タンパク質相同性試験およびタンパク質精製などに用いられています。このように、抗体ベースの試薬は実にさまざまな利用法があり、大きくわけて次のような分類となります。
1.タンパク質精製のためのアフィニティー試薬
抗体は結合性が高く、タンパク質をアフィニティー精製するための強力な試薬です。一般に、不活性担体に抗体を固定することによって、アフィニティー培地を調製します。固定した抗体の特異性に応じてアフィニティー培地をデザインし、単一タンパク質または構造や機能が相同なタンパク質群を単離することきができます。他にも、特異的エピトープ(FLAG®配列など)に固定した抗体を用いて、そのエピトープが標的タンパク質の精製「ハンドル」として共発現された融合タンパク質を精製することもできます。
2.免疫沈降法
標識抗体および非標識抗体抗体は、酵素免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット法など、特異的抗原-抗体結合アッセイに用いることができます。こうした免疫沈降法にはさまざまな種類がありますが、基本原理はほぼ同じで、抗体を抗原に結合させ、一次抗体に結合させた酵素の標識または活性の強度により直接的に抗原を定量するか、一次抗体または抗原のいずれかにさらに二次抗体を結合させ、その酵素の標識または活性の強度により間接的に定量します。定性的、定量的または動態のデータが得られるように実験をデザインすることができます。
3.構造および機能の分析
抗体は、特異的エピトープか、構造または機能が相同な配列に結合するようデザインすることができるため、タンパク質の構造および機能を解明するための強力なツールです。特殊な研究に対してさまざまな実験をデザインすることができますが、すでに確立され、依然としてよく用いられている方法には、ある特定のタンパク質の機能を決めるタンパク質-リガンド相互作用に対する競合的阻害因子として、特異的抗体が用いられています。この戦略により、複数の抗体を同じタンパク質のさまざまなエピトープに用いることによって、特定のタンパク質の活性部位をマッピングすることも可能です。
4.タンパク質の局在化
抗体は特異性が高く、in vitroでもin vivoでもタンパク質の局在化を知るためにきわめて有用です。抗体は特異的な標識(通常は蛍光色素)に結合させることができ、これがさまざまな種類の細胞(フローサイトメトリー)、組織または臓器(免疫組織化学)と相互作用することになります。ほかにも、標識した抗体を動物に注入し、血流中を循環させることもできます。いずれの場合にも、しかるべき蛍光画像法を用いることによって、蛍光標識した抗体の位置を特定したり定量したりすることができます。現在では、複数の標識に結合させた複数の抗体を用いて複数のタンパク質をマッピングする戦略として、よく用いられています。
5.部位特異的薬物ターゲティング
薬物またはプロドラッグは、疾患関連タンパク質に対して生じさせた抗体に結合させることができます。患者または実験動物に投与すると、この「スマートドラッグ」は標的の細胞、組織または臓器の特定のタンパク質とのみ結合します。この戦略により、部位特異的な薬物の有効性が高まるほか、標的ではない細胞に対する毒性の可能性がほとんどないし全くなくなります。
天然タンパク質は従来より抗体作製の抗原として用いられています。これにより出来た抗体と天然タンパクを作用させる手法は大変有用であると言えます。しかし、近年天然タンパク質由来のペプチドを抗原として用いる手法が広く用いられるようになって来ています。ここでは、ペプチドを抗原として用いることの利点をご紹介いたします。
アミノ酸配列―以下の場合、重要になります。
- タンパク質はまだ発見されていないが、遺伝子の配列はわかっている。
- 新たにタンパク質が発見されたが、配列は部分的にしかわかっていない。
- タンパク質の発現量がきわめて少ないか、または十分な量が得られない。
- 組換え技術ではタンパク質が上手く発現しない。
タンパク質に対する抗体の特異性強化―以下の場合、重要になります。
- 構造が相同なタンパク質間の交差反応性の可能性がほとんどもしくは全くなくなる。
- 同じタンパク質のさまざまなエピトープに対して様々な抗体を作製することが可能。
- 翻訳後修飾を受けたタンパク質に対する抗体を作製することが可能。
ペプチドアフィニティーカラムを用いた簡便かつ低コストの精製法
- アフィニティーカラムで全タンパク質を固定する上での問題は生じません。
- タンパク質の固定によるコンフォメーションおよび安定性の問題がほとんどないし全くなくなります。
- アフィニティー結合に用いるのはペプチドリガンドひとつのみであるため、抗体精製度が高まります。
モノクローナル抗体がほぼどんな用途にも理想的であるのは明らかです。しかし、プロセスが複雑なほどモノクローナル抗体の作製費用がかさむため、ポリクローナル抗体が適宜用いられます。ペプチドは、ポリクローナル抗体の作製にもモノクローナル抗体の作製にも適しています。
ポリクローナル抗体
動物を免疫する際、特異的抗原に対する応答としてB細胞のクローン少なくともひとつから生じる抗体または免疫グロブリンの混合物です。抗体は血清からひとまとまりのものとして単離され、抗体はそれぞれに異なる抗原のエピトープを認識します。ポリクローナル抗体は一般に、天然タンパク質から作成したペプチドライブラリの初回スクリーニングに用いられたり、エピトープマッピングに用いられたりします。
モノクローナル抗体
B細胞の単一のクローンから生じる単一の遺伝コードに由来する抗体です。この均質な抗体集団は特異性が高く、単一のエピトープのみを認識し、同じ抗原のなかに存在しているエピトープでも、ほかのものを認識することはありません。この抗体が基本的に無限に産生されるよう、手順を最適化することができます。モノクローナル抗体は定量的免疫沈降法のほか、結合特異性がきわめて高いことが求められる分析法に必要とされます。
1.長さ
ペプチドの長さは10~20残基でなければならず、15残基前後が好ましいとされます。長い配列(20残基以上)になると、エピトープが覆われる可能性は高まりますが、ペプチド合成時およびキャリアコンジュゲーション時に立体障害などの問題を受けやすくなります。逆に短い配列(10残基未満)になると、エピトープが十分に覆われる可能性が低下し、短い配列全体にわたって相同となる可能性があり、交差反応を起こすと考えられます。
2.抗原性
多くの抗原配列は、天然タンパク質の表面に存在する長い親水性部分であると考えられています[8]。この配列を選ぶことにより、作製された抗体がペプチドのみならず、さらには標的となるオリジナルタンパク質をも認識することが保証されることになります。弊社では、様々な抗原特定プログラムを利用して親水性、フレキシビリティー、表面露出の可能性および交差反応の可能性排除などを考慮し最良の配列をご提案可能です。
3.安定性
不安定なアミノ酸や配列を完全に除去できない場合には、できるだけ含まれないようにする必要があります。ペプチド抗原は、合成、精製、キャリアコンジュゲーションおよび免疫時には安定していなければなりません。たとえば、不要なCys、Asp-Gly、Asn-Gly、Asp-Pro、N末端のGlnまたはN末端Asnを含む配列は、ペプチドを化学的に不安定にするものであるためできるかぎり回避する必要があります。
4.プロセスを考える
できる限り合成されやすいペプチド配列を優先する必要があります。ペプチド合成(Arg, Asn, Gln, Cys, His)時に大きな保護基を必要とするアミノ酸伸長部は通常、合成時には問題をはらんでいます[9-12]。疎水性残基の長い伸長部をもつ配列は、溶解が困難です。Cysを複数もつ配列は、共有結合的凝集体を形成する可能性があります。可能な限り、選択する配列は合成しやすく、精製しやすく[13-15]、無害な溶媒に可溶でなければなりません。
5.キャッピング
N末端エピトープの場合、C末端がアミド化されているか、またはC末端でキャリアコンジュゲーションされていなければなりません。一方、C末端エピトープの場合は、N末端がアセチル化されているか、またはN末端でキャリアコンジュゲーションされている必要があります。内部配列の場合は一方の末端がキャッピングされ、もう一方の末端でキャリアコンジュゲーションしていなければなりません。これらの目的は、天然タンパク質では起こりえない変化を抗原用ペプチドにおいても起こらないようにすることにあります。ペプチド末端がネイティブと異なり電荷を持つとタンパク質の折りたたみ構造に影響を及ぼすことが考えられる[16]ため、抗体特異性が変わる可能性もあります。
6.その他考慮すべき事項
RGDモチーフ、ヘリックス-ループ-ヘリックス配列、GTP結合部位またはSH2ドメインなど、共通の配列モチーフは交差反応性を起こすことがありますので、避けなければなりません。自己分解性切断部位、ホルモン活性または翻訳後修飾など、生物学的活性を引き起こす配列も、(それを望むのでない限り、)同じく避けなければなりません。
ペプチド分子は一般に、小さすぎてそのままでは免疫応答を活性にすることができません。このため、ペプチド抗原を分子量の大きな複合体として調整するか、または抗原密度を高くして調製しなければなりません。そのためには、ペプチドとキャリアタンパクとを結合させるか[17-19]、またはペプチドを多抗原ペプチド(MAP)で合成します[20-23]。
1.ペプチドとキャリアタンパクとの結合
- 分子量が大きく、抗原性に優れた様々なキャリアタンパクを利用できます。
- 様々なペプチド配列に適した様々な化学反応を利用することができます。
2.多抗原ペプチド(MAP)
- MAPはポリリシンの核の上に合成された同一ペプチドの分枝4本または8本で出来ています。
- 分子量は直接抗体作製するのに適した13-17kDaです。
- 通常用いられるキャリアタンパクに対する抗体を産生することはありません。
抗体はこれまで、いずれかの手法によっても問題なく作製されてきましたが、キャリアタンパクに結合させる方が好ましい方法だと言えそうです。その理由のひとつに、MAPから生じた抗体が時に天然タンパクを認識しないことが挙げられます。ポリリシンの核によって押し付けられて相対的に硬直し、ペプチドが天然タンパクとは異なる今フォメーションとなるためであると思われます。また、MAPのC末端がポリリシンの核と結合し、C末端エピトープを合成するのに適さなくなることも挙げられます。
すぐれた抗原は、適切なキャリアタンパクの選択や結合反応[17-19]および様々なペプチド配列の重要なポイントが考慮され、ペプチド抗原の構造およびコンフォメーションの完全性が確保されています。また、共役結合反応は、必要であれば特徴を知ることができる特異的な産物をもたらすものでなければなりません。結合反応では一般に、ペプチドにもキャリアタンパクにも存在するアミノ、カルボキシルまたはスルフヒドリルの3種類の官能基を適宜組み合わせて利用されています。
1. キャリアタンパクの選択
- キャリアタンパクは、ペプチド結合の「基準点」となる官能基部分(アミノ基、カルボキシル基およびスルフヒドリル基)を大量に供給します。
- 例えば、スカシガイヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、オボアルブミン(OVA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)またはウシチログロブリン(THY)がよく用いられます。
2.結合反応の選択
- GMBS結合―N-[γ-4-マレイミドブチル酸N-スクシンイミジルエステルマレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル(GMBS)分子が、キャリアタンパクのアミノ基と、ペプチド配列から生じたかまたはそこに組み込まれたCys残基との結合を仲介します。この結合法の大きな利点は、反応が特異的であることと、免疫原性にとって重要なLys、GluおよびAspのいずれの側鎖もペプチドに保存されることと、N末端またはC末端のいずれにもCys残基を置くことが出来る柔軟性です。リンカーには、免疫応答を誘発する力があまりありません(図2参照)。
- EDC法―N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)分子が、ペプチド(GluおよびAspのC末端または側鎖)のカルボキシル基とキャリアタンパクのアミノ基(Lys側鎖)とを結合させます。N末端エピトープにはこの結合方法が適しています。内部のGluまたはAspを通じて結合するペプチドは、コンフォメーションが変化して標的タンパク質を認識しない抗体を生じさせてしまいます(図3参照)。
- 活性化EDC法―これは、キャリアタンパクのカルボキシル基(AspおよびGluの側鎖)をまずEDCで活性化し、 次にペプチドのアミノ基(Lys側鎖のN末端)に結合させる手法です。EDC法と同じ反応を利用するものです。C末端エピトープにはこちらの方が適しています。EDC法と同じく、内部のLysを通じて結合するペプチドは、コンフォメーションが変化して標的タンパク質を認識しない抗体を生じさせてしまいます(図4参照)。
※ アミノ基の数は、キャリアタンパクの種類によって決まります。
※ SH基をもたらすシステイン残基は、ペプチドのN末端上でもC末端上でも構いません。
※ キャリアタンパクひとつあたりの結合ペプチド数はペプチドとキャリアタンパクとの比によって決まります。
3.配列について考慮すべきポイント
- N末端またはC末端で結合させれば、連続したペプチド配列が最長となり、ペプチドが正しいコンフォメーションをとることになります。
- C末端抗原はN末端を通じてキャリアタンパクとカップリングさせる必要があり、逆に、N末端抗原はC末端を通じてカップリングさせる必要があります。
- 配列中ほどでの結合は、正しいペプチドのフォールディングを妨げ、連続したペプチドのエピトープが短くなることがあるため、できる限り避けなければなりません。このような形の結合により作製された抗体は一般に天然タンパクを認識しません。
- 内部ペプチド配列は、抗原性が最も小さい末端でカップリングし、もう一方の末端をN末端のアセチル化またはC末端のアミド化などキャッピングして、それぞれに不要な正および負の電荷を取り除く必要があります。
結合効率を定量する一般的な方法は2種類あります。ひとつは、代表的なペプチドおよびキャリアタンパクの一式を用いて方法をバリデートし、同一条件下であれば同じキャリアタンパクに他のどのペプチド配列を結合させても、ほぼ同じ効率となると仮定するものです。これは通常、ルーチンに結合を行なう研究所で用いられる方法です。これまでに多くの抗ペプチド抗体が、ペプチド-タンパク質複合体の分析を行なうことなく、バリデートされた結合手順により問題なく作製されています。
もうひとつの手法は、特定のペプチドおよびキャリアタンパクに合わせた結合プロトコールを作成し、最終的なペプチド-タンパク質複合体の特徴を明らかにするというものです。結合を初めて実施したり、断続的に実施したりする場合のほか、実験条件も試薬も全く変更しない状況では、これが重要になります。どのペプチド-タンパク質複合体の特徴を明らかにするのにも理想的ですが、定量プロセスは長くなりがちで、誤解が生じやすいものでもあります。
ペプチドとタンパク質との結合効率を定量するにはいくつかの方法があり、それぞれに精度も信頼性も異なります。
1. 放射性ヨード標識
これは古典的な定量方法で、ペプチド配列から生じたかまたはそこに組み込まれたTyr残基をヨードの放射性同位元素で標識した上で結合させるというものです。その後、精製した複合体の放射性同位元素の比放射能から、結合ペプチドの量を推定します。結合ペプチドの量は正確に求めることができますが、キャリアタンパク質1分子あたりの結合ペプチド数の推定値は信頼性に欠けます。安全性の問題で、この方法は現在、ほとんど用いられていません。
2. RP-HPLC
このピーク差モニタリング法は、ペプチドおよびキャリアタンパクの逆相カラムでの保持時間が異なる場合に適用することができます。混合物のアリコートをRP-HPLCで分析し、結合前後のペプチドピーク面積の差から結合ペプチドの割合を推定します。HPLC定量法は、それ自体が信頼できるものであり、タンパク質1分子あたりの結合ペプチド数を推定することができます。ただし、この方法は下流プロセスで起こりうる損失をモニタリングするものではないため、最終的に存在する複合体の量を分析するのが賢明です。
3. アミノ酸分析
これは、結合ペプチドの量を定量するにも、キャリアタンパク1分子あたりの結合ペプチド数を定量するにも、最も正確かつ信頼できる方法[24]です。非天然アミノ酸をペプチド配列に取り込み、キャリアタンパクに結合させます。次に、精製した複合体のアリコートを完全に加水分解し、その分解物をアミノ酸分析によって分析します。存在する非天然アミノ酸の量からペプチド量を算出し、ペプチドとタンパク質との間に多い安定なアミノ酸の比存在度から輸送タンパク質1分子あたりのペプチド数を推定します。
単一抗原ペプチドは従来、抗体作製に用いられてきました。しかし、熟慮の上であっても、抗原ペプチドから抗体が生じないこともあります。このような場合、抗体作製の長いプロセスに関わっている変数はあまりに多いため、失敗の理由を明らかにするのはきわめて困難であることが往々にしてあります。免疫作業が思ったように行かない場合、ペプチド配列の精度、ペプチドデザインの根拠、ペプチドの合成および精製に関わるプロセス、ペプチド-タンパク質複合体を調製するにあたり考慮した諸因子、免疫処置プロトコールからの何らかの逸脱、動物の条件、さらには元々の仮説まで、免疫処置プロセス全体を見直してみる必要があります。別のペプチド配列を選択し、免疫処置プロセスを最初からやり直す方が実際的であることがほとんどですが、すでに多大な時間と資源を無駄にしてしまっています。
比較的最近の戦略に、同じ動物を用いて、同じ天然タンパクに由来する複数の抗原ペプチドを同時に免疫するというものがあります。この戦略はどのような場合にも用いることができるというものではありませんが、多ペプチド免疫戦略からは実質的な恩恵を得ることができます。
- 選択した多数の標的エピトープにさらされるため、上手く抗体が作製される可能性が増大します。抗体を生じさせるペプチドが少なくともひとつはある可能性は大いにあり、特異的なペプチドアフィニティー精製により抗体を個別にもグループでも単離することができます。
- 作製した抗体のプールから、「最良の抗体」(交差反応性最小、力価最大、特異性最大など)を選択することができます。単離後、特定の用途に適しているかどうか、個々の抗体の特徴を明らかにします。
1. ホモジニアスペプチド結合
この戦略では、同じタンパク質の異なるエピトープを代表するペプチド配列それぞれがキャリアタンパクにそれぞれに結合し、各複合体はその後、精製して特徴を明らかにします。さまざまなペプチド-タンパク質複合体をひとつに混合して免疫処置用に配合します。キャリアタンパク分子それぞれがペプチド1種とのみ結合するため、これによりはっきりと認識することができ、各ペプチド抗原に対するT細胞の応答も可能になります。抗体は全ペプチドエピトープに応答するグループとしも、特異的なペプチドエピトープに応じる個々の抗体としても単離することができます。多ペプチド同時免疫処置の戦略としてはこちら方が好ましいようです(図5参照)。
2. ヘテロジニアスペプチド結合
こちらは、ショットガン法にいくぶん似ており、同じタンパク質のさまざまなエピトープを代表するいくつかのペプチドを混合した上で結合させます。このペプチド混合物は次に、キャリアタンパクで一括して結合させます。この戦略には、混合物内の全ペプチドの結合がワンステップですむという利点がありますが、各ペプチド配列が同じ効率でキャリアタンパクと結合することを前提としているのは明らかです。しかし、ペプチド-タンパク質複合体ひとつひとつの特徴を明らかにすることは難しく、このことを証明するのは容易ではありません。各ペプチドエピトープが免疫機構によって等しく認識され、同程度に抗体を誘発するかどうかも定かではありません。この方法であれば、抗体は全ペプチドエピトープに応答するグループとしても、特定のペプチドエピトープに応答する個別の抗体としても単離することができます(図6参照)。
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