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細胞培養の主な種類

初代培養

初代培養

初代培養とは通常生体の組織から切り取られた、もしくは酵素消化によって分離させた細胞を体外で培養して最初の植え替えをするまでのものを指します。初代培養はin vitroの状態では培養器面を一層の細胞で覆うと分裂を中止するため、長い時間同じ状態では保持できません。この比較的短い時間の中で初代細胞培養はその細胞の持つたくさんの生体内での分化特性を保持します。 厳密に言えば初代培養の定義としては一回でも継代(passage)させていないものを指し、一回でも継代したものは細胞系(セルライン)と呼ばれ、「初代」ではありません。一般的に、提供者からもらった「初代培養細胞」は少ない回数で継代されている細胞のことを指します。

継代培養

継代培養は単一の細胞から、限られた回数(約30回程度、細胞によって変動する)までしか増殖できない培養(有限細胞系)か、または培養している間に何らかの変異を起こして無限増殖できる細胞の培養(無限細胞系)の2種類があります。限られた寿命をもつ細胞系(有限細胞系)は通常二倍体であり、ある程度の分化状態を維持しています。このような細胞系が約30回程度分裂した後に老化するという事実から、そのような株の長期維持を目的としたマスターセルバンクとワーキングセルバンクの構築が不可欠であるといえます。
無限増殖の出来る細胞(無限細胞系)は、癌細胞への形質転換によって無限増殖を可能にしていることがほとんどです。癌細胞株の大部分は、実際の臨床癌に由来していますが、ウイルス癌遺伝子や化学処理によって形質転換を誘導することもできます。形質転換された細胞株は、事実上無限に生存可能であるという利点がありますが、その反面、本来のin vivoでの特性がほとんど失われているという欠点もあります。

培養形態

増殖状態にある細胞は大体1~2種類の形態で培養されます。浮遊培養系(シングルセル、もしくは小さな細胞塊になって浮いている状態)、もしくは一層で培養容器に接着する接着培養系です。これらの細胞の形態は例えば生物の体内にあった時に血液内にあったリンパ球や白血球などは浮遊系細胞が多く肺や腎臓などから採取した細胞は接着性細胞が多いなど、元々分化していた場所の特性を継ぐ傾向にあります。接着系細胞は更に分類され、上皮系細胞(endothelial cell, 例:BAE-1)、内皮細胞(epithelialcell、例:Hela)、神経芽系細胞(neuronal cell、例:SH-SY5Y)繊維芽様細胞(fibroblast、 例:MRC-5)、など元の組織に由来している形態が多数あります。Table 1ではそれぞれの細胞形態によってよく使用される細胞株を紹介しています。

様々な細胞の形態の例

HeLa -epithelial

HeLa -epithelial

BAE-1 -endothelial

BAE-1 -endothelial

SH-SY5Y -neuronal

SH-SY5Y -neuronal

MRC-5 -fibroblast

MRC-5 -fibroblast

表Table 1 各細胞形態において使用頻度の高いセルライン

細胞環境(培地の構成成分)

細胞環境(培地の構成成分)

通常では、細胞培養には滅菌的な環境と増殖に必要な栄養が必要です。滅菌的な環境という基本的な条件に加え、細胞培養にはpHと温度の安定も求められます。過去約30年に渡り、様々な培地の組成が検討・開発され商業化されてきました。元来、平衡塩類溶液は哺乳類の心筋細胞の収縮性を維持するために使用されており、タイロード液は初代哺乳類細胞に使用するために当初開発されました。その後、これらの培地は改良が重ねられ、必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸や脂質などが加えられるようになりました。その結果、現在のような様々な細胞が増殖可能な培地へと変化していったのです。培地の組成は各構成物が最適な濃度になるように厳密に定められています。

標準培地の基本構成成分

  • 無機塩
  • 炭水化物
  • アミノ酸
  • ビタミン
  • タンパク質、ペプチド
  • 脂肪酸、脂質
  • 血清

各構成成分には、下記のような具体的な役割があります。

無機塩

培地に含有される無機塩にはいくつかの役割がありますが、主に細胞の浸透圧平衡の維持、そしてナトリウム、カリウム、カルシウムイオンの供給による膜電位の制御に役立ちます。これらはすべて、細胞接着での細胞マトリックスにおいて、また酵素の補因子として必要になります。

バッファー系

ほとんどの細胞はpH 7.2~7.4という条件で増殖するため、最適な培養条件を整えるにはpHの厳密な調節が不可欠です。この最適条件には大きな変動があり、線維芽細胞にはより高いpH(7.4~7.7)が適するのに対して、形質転換細胞株の連続培養にはより低いpH(7.0~7.4)が必要です。
新しく培養を始める場合、細胞播種直後のpH調節が特に重要で、このpH調節は通常、下記の2種類のバッファー系のうちどちらかを用いて行います。
(i)気体CO2が培地中のCO3/HCO3と平衡を保つ、「自然な」バッファー系
(ii)HEPES(製品番号 H4034)などの両性イオンを用いる化学的バッファー系
重炭酸/CO2の自然なバッファー系を使用している培養では、空気中のCO2濃度を5~10%に維持する必要があり、通常はCO2インキュベーターに設置します。重炭酸/CO2は、低コストで、毒性がなく、化学的にも細胞にとって有利なバッファー系といえます。
HEPES(製品番号 H4034)は、pH 7.2~7.4での緩衝能に優れていますが、比較的高価で、高濃度では一部の細胞型に対して毒性を示す場合があります。HEPES(製品番号 H4034)で緩衝した培養では、気体環境の制御は必要ありません。
市販の培地の大部分は、pH指示薬としてフェノールレッド(製品番号 P3532P0290)を含有しており、常に培地のpHを色で確認することができます。通常、色が黄色(酸性)または紫色(アルカリ性)になったときに培地を交換するか補充してください。

炭水化物

エネルギーの主な供給源は炭水化物で、通常は糖として供給されます。用いられる主な糖はグルコースとガラクトースですが、マルトースやフルクトースを含有する培地もあります。糖の濃度は、基礎培地に含有される1 g/Lから、より複雑な培地中の4.5 g/Lまで、培地によって変動します。より高濃度の糖を含有する培地は、より幅広い細胞型を培養することができます。

ビタミン

血清は、細胞培養における重要なビタミン源です。しかし、多くの培地ではビタミンも強化されており、常に幅広い細胞株に適合するようになっています。ビタミンは、多くの補因子の前躯物質です。多くのビタミン、特にビタミンB群は細胞の分裂と増殖に必要で、一部の細胞株にとってはB12の存在が不可欠です。また、ビタミンA、ビタミンEが増量されている培地もあります。培地で一般的に使用されるビタミンンには、リボフラビン、チアミン、ビオチンなどがあります

タンパク質、ペプチド

タンパク質やペプチドは、無血清培地において特に重要です。最も一般的なタンパク質およびペプチドとしては、アルブミン、トランスフェリン、フィブロネクチン、フェチュインがあり、これらは培地への血清を添加して、元々存在している血清と交換するために使用されます。

脂肪酸、脂質

タンパク質やペプチドと同様、血清中に広く存在しているため、無血清培地において重要です。たとえば、コレステロールとステロイドは不可欠です。

微量元素

微量元素としては、亜鉛、銅、セレン、トリカルボン酸中間体などがあります。セレンは解毒剤であり、酸素フリーラジカルの除去に役立ちます。すべての培地は基本的な成分から調製することも可能ですが、その調製には長い時間が必要で、そのためコンタミネーションの危険性も高まります。そういった理由から、大半の培地は成分調製済み粉末、または10倍、1倍の液体として販売しています。本書「細胞培養マニュアル」には、一般的に使用される培地をすべて掲載しています。粉末または10倍液体培地を購入された場合、粉末を溶解したり、液体培地を希釈するために使用する水は、無機物、有機物、微生物によるコンタミネーションがあってはいけません。また、発熱物質が含まれていてもいけません(本書に記載の水(製品番号 W3500、細胞培養用)を使用してください)。ほとんどの場合、最終抵抗16~18 MΩ、逆浸透および樹脂カートリッジで精製された水が適しています。一度調製した培地は、使用前に滅菌ろ過する必要があります。もちろん、Sigma-Aldrichの1倍液体培地を購入された場合はこの手順は必要ありません。

血清

血清は、アルブミン、増殖因子、増殖抑制物質の複合混合物で、細胞培養培地の最も重要な成分の1つであるといえます。最も一般的に使用されている血清は胎児ウシ血清です。新生仔ウシ血清、ウマ血清など、他の種類の血清も販売しています。血清の品質、種類、濃度はすべて細胞増殖に影響を与える可能性があるため、細胞増殖性能について、血清バッチのスクリーニングが重要になります。また、クローニング効率、コロニー形成率、そして細胞特性の維持など、血清バッチの選択に役立つ試験は他にもあります。 血清は培養液の緩衝能を向上させることもでき、これは増殖の遅い細胞、また播種密度の低い場合(細胞クローニング実験など)に重要となる可能性があります。また、撹拌培養中や細胞スクレーパーの使用中に生じうる物理的損傷から細胞を保護する役割もあります。他にも血清の利点をあげると、培地ごとに増殖因子の必要条件が異なるにもかかわらず、多様な細胞種に使用できることがあります。さらに、毒素を吸着して中和することができます。しかし、血清はバッチごとに性質の差があり、このことが生産プロトコールの標準化を困難にしています。また、血清の使用にはコンタミネーションの危険性が伴います。この危険性は、Sigma-Aldrichのような信頼できるメーカーから血清を購入することで最小限に抑えることができます。大量の血清を扱うメーカーは、一連の品質管理試験を行なって血清の分析証明書を発行しているからです。血清の場合、特に牛ウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)とマイコプラズマの有無について試験しています。血清は熱不活性化(56°Cで30分間インキュベーション)により、コンタミネーションの危険性を抑えることができますが、これは一部のウイルスがこの処理により不活性化されるためです。ただし、熱非働化済み血清は、細胞培養において日常的に使用する必要のあるものではありません。また、培地調製のみならず、それ以降の工程を考えても、血清の使用には多くの経費が必要となります。10%FBSを添加すると、培地1 ml中に約4.8 mgのタンパク質が含有されることになり、これによって後の工程が複雑になります。

血清使用のガイドライン

FBS(Fetal bovine serum)は長きに渡り生物学系の研究に使用され、その実績は高く評価されています。
しかしBSE(Bovine Spongiform Encephalopathy:牛海綿状脳症、狂牛病、BSE)が1986年にヨーロッパを中心に広く発生し、またこの病がヒトのクロイツフェルトヤコブ病の病原体に関連性が高いとされたために、全てのウシ原料製品に安全性を注意する傾向が見られるようになりました。
1993年にFDA(Food and Drug Administration:米食品医薬品局)は“BSEを発生した国、およびその国に長く滞在したウシを原料とする製品の使用を推奨しない”としました。またEU(European Union)のガイドラインでもウイルス関連に対しては供給先、試験対象品目に着目し、特に屠殺、もしくは製品の原料となる物質の採取時のクロスコンタミネーションの可能性等に注意を払っています。
BSEに関して言えば、EUのガイドラインはBSE感染リスクは薬品のみに限られており、EMEA(European Medicines Evaluation Agency:(旧)欧州医薬品審査庁)・410/01 Rev.2によると、ウシ由来の製品に関して安全性を期するためにも主要条件確認の実施は推奨されています。主要な条件とは、ウシ原料の由来国、採取時のウシの年齢、屠殺時の条件、ウシの使用可能な部位(組織)、また精製の過程などです。医薬品製造時の過程でのFBS使用は、幾つかの使用条件(原料供給先、ウシの年齢、感染性物質についての工程内管理試験に関する明確な書類)に限り許可されています。

継代時期 –増殖曲線とは-

実験を始める前に播種した細胞がどの様な増殖を示す傾向にあるのかを知っておくのは大事なことです。
その細胞の通常の増殖以外の変化がわかれば、細胞に問題が起きたのがすぐに分かりますし、もし分からなければその実験系に重大な影響があるかも知れません。典型的な増殖曲線はS字カーブを描き、また一般的な細胞は下の4つの期間からなる増殖曲線を描きます。

継代時期 –増殖曲線とは-

遅滞期 Lag Phase

この時期では細胞は分裂しません。この時期、細胞は新しい環境に適応しようとしている状態で、この時期の長さは細胞密度や播種時の損傷回復の時間によります。

対数増殖期 Logarithmic (Log) Growth Phase

この時期の細胞は活発に活動し、細胞密度が指数対数的に上がります。細胞集団はこの時期に一番活発になるために細胞機能を評価するにはこの時期が一番適切です。各セルラインはそれぞれに異なった細胞増殖動態を示すためそれぞれの最適な細胞集団倍化時間をこの時期に算出します。この時期の後期に細胞を継代するのが一般的です。

定常期 Plateau (Stationary) Phase

細胞密度が高くなり、細胞の増殖が止まる、または遅くなります。この時期の細胞数は活発な時期の増殖の0-10%程度になり、細胞は一番傷つきやすい状態になります。

死滅期 Decline (Death) Phase

細胞が死に始めた状態で生細胞が減少する時期です。この時期に死ぬ細胞は栄養成分の枯渇が原因だけではなく細胞周期の自然な流れにもよります。

in vitroにおける細胞の老化

細胞が培養の中でどれだけ生きられるかを示す指標としては二つあります。

  1. 継代数(passage number):細胞が継代(細胞を別の培養容器に植え継ぐ)された数。
  2. 細胞分裂回数(the population doubling (pd) number :PDL):正常細胞では、ある一定の分裂回数を経て老化、死滅することから、継代数よりも確実な管理方法とされています。

細胞培養において、培養している細胞の年代を知るのはその細胞の寿命を把握したり、継続的に培養することによって細胞の一部が変異して特性が変わったりするのを知るのにとても有用です。


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