経口薬の送達には、小腸での溶解、腸細胞のバリアを超えた門脈への吸収、それに続く肝臓を介した体循環への送達が関わっています。そのため肝臓は、吸収、代謝、分布、排泄といった薬物動態のあらゆる面に重要な役割を果たしています。肝臓は以前から、薬物代謝の主要部位として、また、胆道系を介してもしくは腸肝再循環を受けて消失する薬物の排泄の重要な部位として知られていました。しかし、より最近になって、多数の肝毒性および有害な薬物間相互作用に、肝臓の取り込み/排出トランスポーターが果たしている可能性のある役割について注目が集まっています。薬物間相互作用は、ある薬物の取り込み、排出、または代謝が、同じ代謝酵素またはトランスポーター経路で相互作用する2つめの薬物によって、障害もしくは亢進されたときに生じます。 従来の研究では、薬物間相互作用の原因として薬物代謝酵素(チトクロームP450またはCYP)の阻害または誘導が注目されていましたが、薬物間相互作用は、トランスポーター機能との相互作用によっても生じる可能性が徐々に明らかになっています。1
ヒト肝臓における一般的な取り込み/排出トランスポーター – 赤く示したトランスポーターは、現在開発中のノックアウト細胞株でノックアウトされているトランスポーターです。
薬物は門脈と肝動脈の両方から肝臓内に吸収されます。肝細胞の細胞膜上には無数の取り込みトランスポーターが存在しています。たとえば、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP1B1、1B3、2B1)、有機カチオン輸送体1(OCT1)、有機アニオン輸送体(OAT2、OAT7)、ナトリウムタウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)などです。2このうちOATPトランスポーターは特に、複数の臨床的な薬物間相互作用に関係しています。たとえば、コレステロール低下のため処方されることが多い大半のスタチン系薬物は、OATP1B1の基質であることが確認されています。薬物間相互作用が生じる、または遺伝子多型性のためOATP1B1の機能が低下すると、肝臓へのシンバスタチンの取り込みが障害されて薬物の血漿濃度が増加し、シンバスタチン誘発性ミオパチーのリスクが増大することが知られています。3
肝臓からの薬物排出は、2つの異なる部位で生じています。すなわち、側底膜では薬物が体循環に戻され、胆管側膜では薬物が胆汁中に排泄されます。側底膜に存在するトランスポーターは多剤耐性関連タンパク質のMRP3、MRP4およびMRP6で、一方、胆管側膜に存在するトランスポーターは多剤耐性タンパク質1(MDR1すなわちP-gp)、MRP2、乳がん耐性タンパク質(BCRP)、multidrug and toxin extrusion protein 1(MATE1)、胆汁酸塩排出ポンプ(BSEP)です。これら排出トランスポーターのうちBSEPについては、遺伝性疾患(家族性肝内胆汁うっ滞症2型など)に至ることが知られている突然変異により阻害されたとき、また、ボセンタンやトログリタゾンなど多数の薬剤により阻害されたときにも、胆汁うっ滞を生じさせることが明らかになっています。4薬剤誘発性の臨床的肝障害症例のうち約30%は、胆汁うっ滞が主原因または寄与原因となっています。さらに、抱合型高ビリルビン血症の発現は、MRP2の阻害と、それに伴うMRP3を介する肝細胞から血液への排出によって機構的に説明することができます。2
肝トランスポーターの試験として、従来は、取り込みアッセイには懸濁液状またはプレートに播種した肝細胞が用いられ、排出アッセイにはサンドイッチ培養した肝細胞が用いられてきました。加えて、個々のトランスポーターの特性に関する試験では、これらトランスポーターの多くを不死化細胞株または膜小胞で過剰発現させていました。しかし、基質特異性が重複していること、および現在利用できる阻害薬は選択性を欠いていることから、1つの薬物の動態における肝トランスポーターの役割を完全に理解することは困難です。このような限界に対応するため、Sigma-AldrichはそのCompoZr®ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)テクノロジーを利用し、個々の肝取り込み/排出トランスポーターを標的とした一連のノックアウト細胞株を作成しています。これら製品の親細胞株には、代謝的に正常なヒト肝細胞株を利用しています。 初めに開発する細胞株は、側底膜の取り込みトランスポーターであるOATP1B1および1B3、ならびに胆管側膜のトランスポーターであるMDR1、MRP2、BCRP、BSEPおよびMATE1を標的とするものです。
このような新規のノックアウト細胞株を用い、野生型(WT)とノックアウト細胞株の間で薬物輸送を比較することで、特定の薬物-トランスポーター相互作用を特定したり、特性を明らかにすることができます。これらのアッセイは、化学阻害剤の使用に頼らず行うことができ、また活性型の第1段階と第2段階の代謝経路をもつ細胞株に基づく、というメリットもあります。これら新たな細胞株は、製薬企業、バイオテクノロジー企業、大学施設、および開発業務受託機関の皆様のため、お求めやすい価格で、バイアル入りで販売される予定です。
参考文献
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