タンパク質のウェスタンブロッティングの基礎
はじめに
核酸やタンパク質などの高分子を固相メンブレン支持体へ転写する操作をブロッティングと呼びます。ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分離されたタンパク質は、電流を用いてニトロセルロース製またはフッ化ポリビニリデン(PVDF)製のメンブレンへ転写されます。プロテインブロッティングまたはイムノブロットとも呼ばれるウェスタンブロッティングは、細胞や組織抽出物中のタンパク質を研究するための強力な手法です。この手法には以下のような5つの主要なステップがあります。
サンプル調製
細胞や組織からタンパク質を抽出したサンプルを調製し、タンパク質濃度を測定します。界面活性剤や、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を含むさまざまな溶解バッファーを使用して、全組織または組織培養抽出物のタンパク質を可溶化します。Bradford試薬を用いて595 nmの吸光度でサンプル中の総タンパク質を定量します。
ゲル電気泳動
タンパク質を等電点、分子量、電荷またはこれらのすべてを組み合わせて分離します。最も一般的な手法は、SDSを含むポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動(SDS-PAGE)です。電気泳動の前に、タンパク質サンプルを還元剤とともにボイルすることによって変性し、ジスルフィド結合を破壊します。
タンパク質の転写
ゲル電気泳動によって分離されたタンパク質は、転写によってPVDFまたはニトロセルロースメンブレンなどの固体支持体に固定化されます。転写には電流を使用し、ゲルからメンブレン上にタンパク質を引き寄せます(電気ブロッティング)。SNAP id® 2.0ブロットローラーおよびその他のアクセサリーをご確認ください。
タンパク質のバリデーション
メンブレン上に転写された標的タンパク質を検出するには、偽陽性となるあらゆる非特異的タンパク質の検出をブロックすることが重要です。これは通常、BSA、脱脂粉乳または特異的抗血清などのブロッキング剤の使用によって行われます。その後メンブレンは、濃度が最適化された、標的タンパク質特異的な一次抗体および二次抗体で処理されます。
検出・可視化
対象のタンパク質は発色法、放射性検出法、化学発光法または蛍光法によって検出されます。二次抗体は通常、西洋ワサビペルオキシダーゼと結合し、化学発光剤を切断します。反応生成物によって生じた発光は、標的タンパク質の量に比例します。
図1.Sigma-Aldrich®ブロッティングおよび縦型電気泳動システム
図2.ウェスタンブロッティング手順の各ステップ
サンプル調製
タンパク質の抽出
細胞または組織(新鮮または凍結)からのタンパク質抽出のステップはすべて2~8℃で実施します。タンパク質サンプル調製に用いる一般的な溶解バッファーの組成を以下に示します。
RIPAバッファー:
- NaCl (S3014) 150 mM
- Triton® X-100(T8787) 1%
- 0.5%デオキシコール酸ナトリウム
- 0.1% SDS (L3771)
- 50 mM Tris-HCl、pH 8.0
- プロテアーゼ阻害剤
接着細胞からのタンパク質抽出
- 細胞の入った培養ディッシュの培地を除去し、氷冷したPBSを使用して細胞を洗浄します。
- PBSを捨て、氷冷した溶解バッファーを添加します。
- 予め冷やしておいたプラスチック製セルスクレーパーを用いて細胞をそぎ落とし、マイクロ遠心チューブに細胞を回収します。
- 4℃で30分間、マイクロ遠心チューブの中身を撹拌します。
- 4℃で20分間、チューブを16,000 xgで遠心します。新しいチューブに上清を回収して、氷上に置きます。ペレットを破棄します。
懸濁液中の細胞からのタンパク質抽出
- 4℃で5~7分間、細胞懸濁液を2,000 xgで遠心します。チューブの底に細胞が集まり、上清を破棄します。
- 細胞ペレットに氷冷したPBSを添加し、4℃で5~7分間、2,000 xgで遠心して細胞を洗浄します。
- 細胞ペレットに氷冷した溶解バッファーを添加します。4℃で30分間、マイクロ遠心チューブの中身を撹拌します。
- 4℃で20分間、チューブを16,000 xgで遠心します。新しいチューブに上清を回収して、氷上に置きます。ペレットを破棄します。
組織からのタンパク質抽出
- 対象の組織を氷上で切り出します。組織を丸底のマイクロ遠心チューブに移し、液体窒素に浸して急速凍結します。
- 組織5 mgに対して300 µLの氷冷した溶解バッファーを添加し、電気ホモジナイザーを使用してホモジェナイズします。ホモジェナイズ中に溶解バッファーをさらに300~600 µL添加します。
- 4℃で2時間、中身を撹拌します。
- 4℃で20分間、チューブを16,000 xgで遠心します。新しいチューブに上清を回収して、氷上に置きます。ペレットを破棄します。
タンパク質の濃度測定
- 少量の細胞溶解液を採取して、タンパク質濃度測定を実施します。タンパク質濃度測定は、クマシータンパク質アッセイ試薬(製品番号27813)によって実施できます。
- スタンダードと未知のサンプルの595 nmにおける吸光度を記録します。
- スタンダードとの比較により、未知のサンプルのタンパク質濃度を決定します。
- すべてのサンプルの中身が同じ総タンパク質濃度になるように、複数のマイクロ遠心チューブに適量の細胞溶解液を移します。
- 氷冷した適切な溶解バッファーを添加し、すべての細胞溶解液を同量にします。
サンプル調製
電気泳動のためのサンプル調製に必要なローディングバッファーの組成を以下に示します。
2X Laemmliローディングバッファー:
- ブロモフェノールブルー(B5525) 0.004%
- 2-メルカプトエタノール 10%
- グリセロール(G5516) 20%
- SDS(L3771) 4%
- Tris-HCl 0.125 M
- 細胞溶解液に同量のローディングバッファーを添加します。
- 上記の混合液を95℃で5分間煮沸します。16,000xgで5分間遠心します。
- これらのサンプルは、−20℃で保存することも、ゲル電気泳動を行うために使用することもできます。
ゲル電気泳動
陽極バッファーと陰極バッファーの両方の機能を果たすランニングバッファーが利用できます(製品番号GE28-9902-52)。あるいは、成分を混合してランニングバッファーを調製することもできます。
- 10X ゲルランニングバッファー、pH 約8.6
- Tris 250 mM
- グリシン(G8898) 1.92 M
- SDS(L3771) 1%
- 濃縮ゲルと分離ゲルからなる非連続性プレキャストゲルに、同量のタンパク質を添加します。
- 必要に応じて、タンパク質マーカーを添加します。
- 濃縮ゲルでは80~100 Vで泳動し、サンプルが分離ゲルに入ったら電圧を100~150 Vに上げて、ブロモフェノールブルーのダイフロントがゲル末端に達するまで実行します。
ゲル染色
R-PROB染色
- 電気泳動後のゲルを固定液に20分浸漬します。このステップを2回繰り返します。
- ゲルを水で2回リンスします。各回とも30分続けてください。
- ゲルをメンブレンおよびポリアクリルアミドゲル用可逆性タンパク質検出キット(製品番号RPROB)でゆっくり揺らしながら20~40分処理します。
- 余分な染色剤を10%酢酸で洗い流します。
- 脱染のために、EDTAでゲルを洗浄してから、水または固定液での洗浄を15分ずつ2回行います。
銅染色
タンパク質の移動および分離を確認するには、ゲルをCuCl2などの可逆性染色剤で染色できます。
- 電気泳動後のゲルを蒸留水で最大30分リンスします。
- ゲルを0.3 M CuCl2溶液に10分浸漬してから、すぐに脱イオン水でリンスします。
- タンパク質は、青色をバックグラウンドとして明確に可視化されます。必要に応じてゲルを写真撮影します。
- 脱染のために、染色したゲルを0.25 M Trisおよび0.25 M EDTAのpH 9溶液で繰り返し洗浄します。
- 転写装置の準備を開始する前に、脱染したゲルをトランスファーバッファーに移します。
タンパク質の転写
ゲルから柔軟で取扱いが容易なメンブレン支持体へのタンパク質転写は、電気ブロッティングと呼ばれる電気的プロセスによって迅速に行うことができます。電気ブロッティングは、ウェットまたはセミドライの条件で実施できます。いずれの手順にも、主要な構成要素のトランスファーバッファーと転写装置が必要です。
試薬
- 1Xトランスファーバッファー(10Xトランスファーバッファー、製品番号T4904から調製)
- メタノール(製品番号M1775)
- PVDF(製品番号05317)またはニトロセルロース(製品番号GE1060000)メンブレン
転写装置を準備する前に、PVDFメンブレンに以下の平衡化ステップを行う必要があります。
- PVDFメンブレンを適当な大きさに切断します。
- メンブレンをメタノールに2分浸漬します。
- メタノールを除去し、冷たいトランスファーバッファーの中でメンブレンを5分処理します。
- これでPVDFメンブレンは平衡化され、タンパク質の転写に使用できます。
ニトロセルロースメンブレンをメタノールで処理しないでください。トランスファーバッファーでの処理で十分です。
ゲルからタンパク質をメンブレンへ転写するには、ブロッターユニットで以下の積層を用意する必要があります。ゲルとメンブレンの間に気泡が入らないようにしてください。
図3.ウェスタンブロットトランスファーアセンブリ
私たちはセミドライ式ブロッターユニットを提供しています。この装置は、バッファー量を節約でき、発熱が低く、バンドの歪みが少なく、厚みの異なる複数のゲルを転写できます。
転写は、50 Vの電圧を4℃で2時間かけて実施できます。
タンパク質検出のためのメンブレンの可逆的染色
ゲルからメンブレンへのタンパク質の転写は、ポンソーSなどの可逆的メンブレン染色剤によって確認できます。メンブレンの可逆的染色に必要な試薬を以下に示します。
- ポンソーS溶液(P7170)
- TBSTバッファー:TBSTバッファーにはいくつかの種類があります。
1.1X TBST(T9039)
2.10X TBS(T5912)、使用前に0.05% TWEEN® 20(P9416)を添加
3.次の試薬を使用して調製:NaCl(S3014)0.15 M、Tris-HCl 0.05 M、TWEEN® 20(P9416)0.05% - NaOH 0.1 M
手順
- TBSTでメンブレンを洗浄します(転写後にメンブレンを空気乾燥させた場合は、メンブレンをTBSTに浸漬して完全に湿らせる必要があります)。
- メンブレンを染色液に5分浸漬します。タンパク質は、メンブレン上で赤色/ピンク色のバンドとして可視化されます。
- 脱染のために、メンブレンを0.1 M NaOHに浸漬します。30秒程度でタンパク質のバンドが消え始めます。
- 蒸留水の流水でメンブレンを2~3分リンスします。
- 完全に脱染されたメンブレンは、抗体を用いたタンパク質バリデーションにすぐに適用できます。
タンパク質のバリデーション
ブロッキング溶液
私たちはW0138、T8793、B6429およびC7594などの使いやすいブロッキング溶液を提供しています。3%の脱脂粉乳を含むTBSTバッファー、またはTBSTバッファーの5% BSA(A7906)溶液も使用できます。
- ブロッキング溶液を調製する際は、発色中にメンブレン上に濃い粒子状のバックグラウンドが生じないように溶液をろ過してください。BSAを含むブロッキング溶液は、リン酸化タンパク質の検出に望ましい選択肢です。
- メンブレンをブロッキング溶液に入れて4℃で1時間ブロッキングします。最良の結果を得るには、ブロッキング時間を最適化してください。
- ブロッキング溶液で処理した後に、メンブレンをTBSTで1分洗浄します。
一次抗体処理
- データシートの推奨事項に従って一次抗体をTBSTで希釈します。一部の抗体については、5% BSAを含むTBST溶液で希釈します。
- メンブレンを一次抗体溶液で、数時間から一晩、4℃で処理します。抗体溶液でのメンブレンの処理は、均一な結合が促進されるように揺り動かしながら行うことが推奨されます。
- 処理後に、一次抗体溶液を除去します。メンブレンをTBSTで3回洗浄します。各回とも5分洗浄してください。
二次抗体処理
一般的に使用される二次抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(ALP)により標識されています。HRP標識二次抗体は、ALPよりも高感度です。
- 取扱説明書の推奨事項に従って二次抗体をTBSTで希釈します。
- メンブレンを二次抗体溶液に入れて、室温で1~2時間撹拌しながら処理します。
- 処理後に、二次抗体溶液を除去します。メンブレンをTBSTで3回洗浄します。各回とも5分洗浄してください。
検出
ウェスタンブロッティングでのタンパク質検出には、比色法および西洋ワサビペルオキシザーゼおよびアルカリホスファターゼによる化学発光法などさまざまな手法があります。
さまざまなウェスタンブロッティング緩衝液およびブロッキング溶液については、計算ツール・アプリをご覧ください。
参考文献
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