タンパク質立体構造アレイのマルチプレックス解析
バイオシミラーモノクローナル抗体開発を成功に導くための高次構造の理解
モノクローナル抗体は、バイオ医薬品分野において最も急速に成長している治療法であり、現状のペースで承認が続けば、2020年までに世界全体での市場規模は1,250億米ドルになると予測されています。上市される医療用モノクローナル抗体の増加が続けば、これに伴いバイオシミラー(バイオ後続品)も増加すると見込まれています。1
米国食品医薬品局(FDA)によるバイオシミラーの定義は、「既存のFDA承認済み対照医薬品と類似性が高く、臨床的に有意な差が見られないバイオ医薬品」とされています。
モノクローナル抗体分子は、生物学的機能の重要な要因である三次元構造が非常に複雑であるため、バイオシミラーの生産には困難が伴います。たとえバイオシミラーモノクローナル抗体と、その元となった医療用モノクローナル抗体の構造の差がわずかであったとしても、安全性、有効性および分子の機能に顕著な影響が生じることがあります。
モノクローナル抗体の三次元構造は、一次構造から四次構造までの複合的効果と翻訳後修飾によってもたらされます。高次構造と呼ばれるこの立体構造は、遺伝子配列だけでなく、バイオシミラーを生産するための細胞株、また、温度・pH・光照射といったバイオプロセシングの条件や、製剤方法といった要因の影響も受けます。
考慮すべき要素がこれほどたくさんあるため、バイオシミラーモノクローナル抗体の構造が、元となった抗体の構造と同一でないことがしばしばあります。こうした違いから起こる可能性のあるさまざまな問題を回避するため、2015年に刊行されたFDAのガイドラインでは、物理化学的および機能的な比較検査を幅広くしっかりと実施し、バイオシミラーと対照製品の生物学的類似性を評価することを推奨しています。2
現在利用可能な高次構造解析方法を以下に説明します。ただし、いずれの方法もモノクローナル抗体の三次元立体構造について有用な情報が得られる一方で、感度と廉価性の両方を兼ね備えたものではありません:
- 円偏光二色性スペクトル測定
- サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
- 超遠心分析(AUC)
- 未変性電気泳動
- 水素‐重水素交換質量分析(HDX/MS)
- 核磁気共鳴(NMR)分光法
これらの方法の制約により、また、FDAの要件を満たそうという流れから、バイオシミラーモノクローナル抗体の高次構造を解析し、対照モノクローナル抗体と比較するための代替的なハイスループット手法の需要が高まってきています。Array Bridge社のProtein Conformational Array (PCA)(以下、「タンパク質立体構造アレイ」)技術の独占販売権の取得により、私たちはこの問題に対して最適なソリューションを研究者に提供します。私たちのセントルイスオフィスのすぐ近くにあるArray Bridge社は、分子レベルのバイオシミラーの同等性の測定について経験豊富な企業です。
タンパク質立体構造アレイ技術
Array Bridge社のWangらは、2013年に『Frontiers in Pharmacology』誌に掲載された論文で、モノクローナル抗体の高次構造を詳細に調べるための高機能抗体アレイの開発について発表しました。3著者らは、モノクローナル抗体の構造をすべて網羅するようにオーバーラップするペプチド免疫原に対するポリクローナル抗体を作製し、商品化された異なるモノクローナル抗体において、アミノ酸配列がほぼ同一であっても明らかに異なる高次構造の特徴が見られることを示しました。
抗体の構造の化学修飾や物理的変化がポリクローナル抗体パネルによって検出され、高次構造の特徴が異なるモノクローナル抗体間で目に見える変化として現れます。パネルの各ポリクローナル抗体は、本来正しく折りたたまれているときには結合できない、一部または全体が露出した直線状エピトープまたは二次構造エピトープに結合します。折りたたまれていない、または誤って折りたたまれているために、モノクローナル抗体表面にこれらのエピトープが現れ、シグナルに変化が生じます。
これらの抗体アレイによって、基準となるオリジナルのモノクローナル抗体とバイオシミラーを比較し、臨床に関連する作用をもたらす可能性のある立体構造変化を確認できます。
タンパク質立体構造アレイ技術は非常に使いやすいものとなっています。操作が容易なELISAフォーマットで、モノクローナル抗体の高次構造を迅速、正確かつ高感度で測定できます。モノクローナル抗体開発のすべてのステージで有用です。
抗体アレイ中の34種類の抗体の分布。タンパク質立体構造アレイ技術を採用しているポリクローナル抗体アレイは、モノクローナル抗体全体のアミノ酸配列を網羅している。
タンパク質立体構造アレイELISAを用いたプロセス開発のための高次構造解析
モノクローナル抗体の製造プロセスを立ち上げる際には、複数の条件について入念な最適化が求められます。細胞株作製、培地や添加物の選択、プロセス開発などに由来する変化が、医療用モノクローナル抗体の高次構造に変化をもたらすことがあります。RituBridge PCA ELISAを用いて得られた以下のデータは、酸化、高温および高pHというさまざまな厳しい条件がモノクローナル抗体「リツキサン」の高次構造に与える影響を示しています。リツキサンは、さまざまなタイプのCD20陽性非ホジキンリンパ腫の治療に使われています。上記3条件のいずれもがモノクローナル抗体の折りたたみ構造をほどきましたが(アンフォールド)、アンフォールディングのパターンはそれぞれ顕著に異なり、各条件で異なる高次構造の特徴を示しました。
RituBridge PCA ELISA1~3のうち1を用いて測定した酸化、高温およびpH変化のリツキサンに対する影響。通常であれば結合できないエピトープが露出すると吸光度(OD)のピークが生じ、これは高次構造の変化を示す。
タンパク質立体構造アレイELISAを用いたFDA申請のための高次構造解析
物理化学的条件のモノクローナル抗体に対する影響の評価に加え、タンパク質立体構造アレイELISAは、先発のバイオ医薬分子の複数のロットとバイオシミラーの比較にも使うことができます。以下のデータでは、バイオシミラーの候補が、先発品と比較して非常に優れた類似性を持ち、異なる可能性があるのはAb9領域のみであることを明確に示しています。
バイオシミラーが先発のバイオ医薬分子と異なる高次構造の特徴を示したとしても、必ずしもそうした違いが臨床的に問題となるとは限らないということは重要です。タンパク質立体構造アレイELISAのデータは、FDA申請をサポートするために必要なエビデンスに多大な付加価値を与えます。
バイオシミラーと先発バイオ医薬分子の5つの異なるロットの比較の結果、4領域(Ab 5、9、17および30)で作用に差がある可能性が示された。
新規モノクローナル抗体開発におけるハイスループットタンパク質立体構造アレイInnoPlex®
InnoPlex®は、CHO細胞株由来のIgG1の保存構造に基づいた新規医療用モノクローナル抗体を特異的に標的とするタンパク質立体構造アレイです。タンパク質立体構造アレイELISAは、3種類の化合物を同時に測定することが可能ですが、私たちはInnoPlex®として知られるマルチプレックス手法を開発することで、プレート1枚当たり約45種類の化合物をduplicateで測定できるまで解析のスループットを高めました。
InnoPlex®はLuminex®社のxMAP®技術をInnoBridge ELISAと組み合わせました。色素の組み合わせによって色分けされた特殊なマイクロビーズを使って、複数のアナライトを同時に検出することを可能にしています。ポリクローナル抗体をこれらのビーズの表面に固定することで、96ウェルプレートのウェル1つで34種類のエピトープを同時にスクリーニングすることが可能です。
ハイスループットタンパク質立体構造アレイRituPlexおよびInnoPlex®のデータ例(RituBridgeおよびInnoBridgeのマルチプレックス)。
バイオシミラーの候補を酸性/塩基性条件下に置いた場合
RituBridge ELISA抗体1~34をxMAP®技術によりマルチプレックス(RituPlex)。コントロールは低pHで処理した既知のバイオシミラーモノクローナル抗体。
コントロールとpH3の比較
Luminex®社のxMAP®技術によるInnoPlex®マルチプレックスタンパク質立体構造アレイを用いて、pH由来のストレス下で検出された新たな医療用モノクローナル抗体(未知のバイオシミラー)の変化。
医療用モノクローナル抗体が免疫原となる可能性は、これまでに十分に論文などで示されており、この問題の重要性は、Songらによる2018年の論文で実証されています。この研究で、著者らは医療用抗体の開発における高次構造解析にInnoPlex®法が適していることを示し、タンパク質立体構造アレイのデータがサイズ排除クロマトグラフィーなどの古典的な手法から得られたタンパク質の安定性の結果と相関性が高いことを示しました。5
また、著者らはモノクローナル抗体間のさまざまな構造の違いを検出しましたが、この中でも重要な発見は、プロセシングの条件が抗体の凝集を引き起こし、これにより抗体エピトープの露出が顕著に増えたという点です。これが「異物」分子となり、免疫原性をもたらす可能性があることに著者らは言及しました。
参考文献
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