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窒化ホウ素(BN)ナノチューブ

Richard Dolbec, Ph.D.

Director, R&D Group, Tekna Plasma Systems Inc.

はじめに

窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT:boron nitride nanotube)は、カーボンナノチューブ(CNT:carbon nanotube)と非常に類似した構造を持ちます。BNNTは高アスペクト比のナノチューブで、CNTの炭素原子が窒素原子とホウ素原子で交互に置換された材料です。CNTとBNNTはともにヤング率が1 TPaを超える、最も強度の高い軽量ナノ材料であると考えられています。また、BNNTの熱伝導率もバルクの配向単層CNTと同等です。ただし、CNTとは異なり、BNNTのバンドギャップは非常に大きく(~5.5 eV)、優れた抗酸化性と熱安定性を示します。これらの特性により、BNNTは機械的補強、透明バルク複合材料、金属基複合材料(MMC:metal matrix composite)などの高温材料、放射線遮蔽の用途において魅力的な材料です。BNNTとCNTの主な特性の比較を図1に示します。

BNNTとCNTの比較

図1BNNTとCNTの主な特性の比較1

窒化ホウ素ナノチューブの合成

窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)は、1995年にアーク放電法を用いて初めて合成されました2。それ以来、レーザーアブレーション法、化学気相成長法、ボールミリング・アニーリング法、熱分解法、アークジェットプラズマ法などのBNNT合成法が研究されています。また、この数十年間、誘導結合プラズマ(ICP:inductively coupled plasma)法が様々なナノ構造材料の合成に使用されています3-11。なかでも、このICP法は高品質BNNTを大量に生産することができるため、大きな注目を集めています12,13。ICP法では、純粋な六方晶窒化ホウ素(h-BN)粉末を水素リッチなアルゴンプラズマ内で蒸発させて、構成元素(B、N、H)に分解します。触媒効果を得るために、反応ガス中の水素の存在が非常に重要になります。また、反応ガス中に水素が存在することで、ICP法では金属触媒が不要となるため、非常に高純度で、直径の小さなBNNTを得ることができます。

窒化ホウ素ナノチューブの特性評価

ICP法により成長させたBNNT材料はバルク状の塊として回収され13、そこからBNNTフィブリルを分離して(図2a)、BNNTヤーン(yarn、糸状)を作製することができます(図2b)。図2のように、材料のベージュがかった着色は、アモルファス状のホウ素が少量存在することを示していますが、後処理によって除去が可能です。

フィブリル材料とBNNTヤーン

図2フィブリル材料(a)からBNNTヤーン(b)を作製可能14

図3に、ICP法で作製した合成後のBNNTの代表的な走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscopy)画像を示します。この図から、ICP法で合成したBNNTが、ランダムに配向したナノチューブからなることを確認できます。これは、ICP法がBNNTの合成に基板を使用していない点を反映したものです。単離したBNNTをSEMで解析した結果、BNNTの長さは通常数ミクロンであることが明らかとなっています。

BNNTのSEM画像

図3作製したそのままのBNNT材料のSEM画像14

次に、BNNTの代表的な透過型電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscopy)画像を図4に示します。これら画像は、ICP法で合成したBNNTが、通常、多層(2層~5層)のチューブ構造を持ち、直径が平均約5 nmであることを示しています。また、BNNTの各層に欠陥が存在せず、ICP合成法により実際に高品質のBNNTが得られていることも、これらの画像より明らかです。

BNNTのTEM画像

図4合成後未処理のBNNTのTEMによる解析14

厚さが約0.2 μmのBNNT薄膜の紫外・可視領域における光学的特性を図5に示します。透過率は広い波長範囲にわたって良好で、六方晶窒化ホウ素(h-BN)相の特徴である約200 nmの強い吸収も観測されています。BNNTは可視領域で透明なので、光学的特性が非常に重要性となる、強化ガラスなどの複合材料にBNNTを組み込むことが可能です。

BNNT薄膜の紫外・可視領域の透過率

図5BNNT薄膜の紫外・可視領域の透過率14

BNNTの熱的、化学的安定性は極めて優れています。BNNT材料は、空気中で温度900℃まで安定で、強い酸化条件にも長期間耐えられることが判明しています。このBNNTの優れた耐久性の例を図6に示します。BNNTバッキーペーパー(buckypaper)を折り畳んで天然ガスの炎に暴露したときの挙動を、普通紙およびCNTバッキーペーパーと比較したものです15。CNTは燃え出すまでに普通紙よりも数秒長く耐えられますが、BNNT材料は天然ガスの炎に150秒間暴露された後も元のままで、BNNT材料が不燃性であることを示しています。

BNNTの不燃性

図6普通紙およびCNTバッキーペーパーと比較したBNNTの不燃性15

窒化ホウ素ナノチューブの用途

窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)は剛性が高く、優れた化学的安定性を示すため、ポリマー、セラミックス、金属の強化に最適な材料です。例えば、BNNTバッキーペーパー/エポキシ複合材料や、ポリウレタンで修飾したバッキーペーパー複合材料の開発に成功しています1,16。これら複合材料は、純粋なエポキシの2倍、未含浸BNNTバッキーペーパーの20倍のヤング率を示します。また、BNNTは、アルミニウム系構造の補強材として最も有望な種類の1つでもあります17。CNTの場合、炭素とアルミニウムが反応して不要なAl4C3相が界面に形成されてしまうのに対し、BNNTは反応性が低いため、アルミニウム系マトリックス材料に容易に組み込むことができます。さらに、BNNTの酸化温度(約950℃)がアルミニウムの融点(660℃)よりも十分に高いので、溶融アルミニウム中にBNNTを直接、均一に分散させることができます。BNNTは非常に低密度でありながら、高温でも機械的特性を保持するので、耐熱性の軽量MMC(金属基複合材料)を新規に開発することも可能です。BNNTは熱伝導率も良好であるため、放熱が非常に重要になるナノエレクトロニクス用途でもBNNTを使用できます。また、複合材料の剛性が向上するだけでなく、高い熱伝導率と透明度が同時に得られるので、BNNTは多機能材料として利用できます。すでに、BNNTが持つ高い剛性と透明度の組み合わせがBNNT強化ガラス複合材料の開発において活用されています18。他にも、良好な放射線遮蔽性19、高い電気抵抗、優れた圧電特性などの固有の特性をBNNTが持っていることから、新規用途へのBNNTの応用に対する関心が高まると予想されます。

まとめ

現在、窒化ホウ素ナノチューブを大量に入手することが困難なため、BNNTを用いた応用はまだ開発段階にあります。この点において、高品質材料を大規模生産できるICP法を用いたBNNT合成法は大きな可能性を持っています。研究開発分野で高品質BNNTが大量に入手できるようになれば、BNNT特有の性質のより深い研究がさらに進み、新規用途の開発も同時に加速するでしょう。

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