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生分解性ポリマー (RESOMER)

はじめに

特性の制御された生物医学用分解性ポリマーは、組織工学や薬物送達療法の分野で重要な材料です。これまで多くの種類の天然および合成の生分解性ポリマーについて、医薬用途での利用が検討されてきました。生物医学的研究では、セルロースやデンプンなどの天然ポリマーの利用がまだ一般的ですが、一方で、医薬品や組織工学製品での生分解性合成ポリマーの使用はますます増えています。合成ポリマーの場合、生物医学材料の物理的性質を最適化するように制御された化学構造を持ち、天然ポリマーを使用した場合よりも明確に規定された純度と組成を持つ材料を調製できます。現在、優れた生体適合性を持ち、生分解速度と機械的強度が調整されたいくつかの種類の生分解性合成ポリマーが存在しています1

ポリグリコール酸(PGA)やポリ乳酸(PLA)およびその共重合体は、他のどの種類の生分解性ポリマーよりも幅広く研究されてきました。PLA/PGAは、体内でエステル主鎖の単純な加水分解によって無害で非毒性の化合物に分解される生分解性ポリエステルです。分解生成物は、腎臓によって排泄されるか、またはよく知られている生化学的経路を通して二酸化炭素と水として排出されます。これらポリマーは現在、外科縫合や吸収性インプラントとして利用されていますが、さらに薬品のカプセル化や薬物送達への利用にも大きな関心が持たれています。PLA/PGAポリマーは、ほぼすべての先進国の規制当局によって安全、非毒性、かつ生体適合性があるとみなされているため、新しい用途で用いる場合、生体適合性が確認されていない新規なポリマーを使用するよりも早く、高い費用効率で市場に提供することができます。

アルドリッチでは、Evonik Röhm GmbHが製造する「PLA/PGA RESOMER®ポリマー」を販売しております。RESOMERポリマーの基本的な特性と製品一覧表を最後に示します。なお、これら化合物のGMPグレード材料は、Evonik Röhm GmbHから直接購入することができます。

PLA/PGAポリマーの特性

PGA、PLAおよびそれらの共重合体は、一つには、PLA/PGAの基本的な特性を保ちつつ、組成を変えることによってその特性を調整できるため、最も広く使用されている生分解性ポリマー材料です。

PGAの一般構造式

図1.PGAの一般構造式

ポリグリコール酸(PGA)

PGAは高結晶質の物質で、高い融点(225~230℃)を持ち、有機溶媒への溶解度は一般的に低く、ポリマーの分子量に応じてその溶解度が変化することが特徴です。ポリマー主鎖にエステル結合を持つために容易に加水分解します。また、このPGAは溶解度が低いにもかかわらず、さまざまな形状や構造のものが作製可能で、押出し、射出、圧縮成形のほか、微粒子浸出(particulate leaching)、溶液キャスティング(solvent-casting)などの方法があります。PGAの繊維は高い強度(弾性率:7 GPa)を持ち、とりわけ剛性が高いために2、骨部の内固定材への使用が検討されています。ただし、PGA材料は溶解度が低くもろいため、用途によってはその使用が限られることがあります。

PLAの一般構造式

図2.PLAの一般構造式

ポリ乳酸(PLA)

ラクチドはグリコールと異なりキラルな分子であり、L体とD体の2つの光学異性体が存在します。これらのモノマーをそれぞれ重合すると、半結晶ポリマーが得られます。L-ラクチドとD-ラクチドのラセミ混合物を重合した場合は、ポリ-D,L-ラクチド(PDLLA)が形成されますが、これはガラス転位温度が55~60℃のアモルファスです。結晶化度はポリマー内のD、L鏡像異性体の比率を変えることにより調整できます。PLAの立体化学は、ポリマーの特性、加工性、および生分解性に大きな影響を与えます。ポリ-L-ラクチド(PLLA)が、流延/押出しによって作製される生物医学用器具に使用されることの多いポリマーであるのは、PLLAは天然に存在する立体異性体のL(+)-乳酸単位に分解するために、最小限の毒性で排泄されるためです3。(PLA素材の3Dプリンター用フィラメントはこちら

PLGA共重合体の一般構造式

図3.PLGA共重合体の一般構造式

ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体(PLGA)

ポリエステル共重合体において、あらゆる種類のPLGAポリマー(乳酸・グリコール酸共重合体)に関する研究が幅広く行われてきました。L-ラクチドとDL-ラクチドの両方が共重合に使用されてきました。さまざまな組成でラクチドに対するグリコリドの比率を変えると、ポリマーの結晶化度を制御できます4。結晶質PGAをPLAと共重合させると、結晶化度が低下し、水和と加水分解の速度が速くなります。つまり、共重合体の分解時間は合成に使用するモノマーの比率と関係があるといえます。一般に、グリコリドの含有率が高いほど分解が速くなりますが、例外としてPGAとPLAの比率が50:50の場合、分解が最も速くなります5,6

PDSの一般構造式

図4.PDSの一般構造式

ポリジオキサノン(PDS)

生分解性ポリラクチドおよびグリコリドは、多用途の吸収性マルチフィラメントの開発に使用されてきましたが、モノフィラメント縫合糸を形成する物質を開発するための研究が増えています。マルチフィラメント縫合糸は使用の際の感染リスクが高く、組織を貫通するときに大きな摩擦が生じます7,8。ポリジオキサノン(PDS)はp-ジオキサノンモノマーの開環重合によって合成され、ガラス転位温度が -10~0℃の範囲であること、および結晶化度が約55%であることが特徴です。PDSを用いて調製された材料は、ポリマー鎖の主鎖の中にエーテル酸素が存在するために高い柔軟性を示します。in vivoで使用すると低毒性のモノマーに分解し、また、PLAやPGAより低い弾性率を持ちます。通常縫合糸を製造する場合は、自発的な解重合によってモノマーに戻ることを防止するために、PDSを可能な限り低い温度で押し出して繊維にします。(→ 「ポリジオキサノン共重合体」のご紹介)

末端基

RESOMERポリマーには、遊離カルボン酸とアルキルエステルの2種類の末端官能基を持つタイプがあり、アルキルエステル基でキャップされたポリマーは、一般に遊離カルボン酸のタイプより長い分解時間を示します9

RESOMERポリマーの品質および規格

RESOMERポリマーはすべてEvonik Röhm GmbHで製造され、研究段階から商品化までのプロセス全体でユーザーが一貫した材料特性を利用できるように、厳密な製品規格に適合しています。その規格の例には(a)残留モノマー、(b)インヘレント粘度※、(c)重金属含有率、(d)硫酸塩灰分含有率があります。アルドリッチでは、RESOMER製品以外の生分解性合成ポリマー天然ポリマー製品についても取り扱っております。

※対数粘度数。高分子希薄溶液の粘度を純溶媒の粘度で割った値。この値を高分子濃度0へ補外して固有粘度が得られる。(第2版標準化学用語辞典より)

表1 RESOMER生分解性ポリマー

*Inherent Viscosity [dl/g], (特に記述のない限り0.1% in CHCl3, 25℃)
RESOMER is a registered trademark of Evonik Röhm GmbH, Darmstadt, Germany.

References

  1. Biomaterials Science, 2nd Ed.; Ratner, B.D.; Hoffman, A.S.; Schoen, F.J.; Lemons, J.E., Eds.; Elsevier: London, 2004.
  2. Middleton, J.; Tipton, A. Medical Plastics and Biomaterials, March 1998, 30. (参照 2010-6-3)
  3. Athanasiou, K. A.; Niederauer, G. G.; Agrawal, C. M. Biomaterials 1996, 17, 93.
  4. Cohn, D.; Younes, H.; Marom, G. Polymer 1987, 28, 2018.
  5. Park, T.G.; Lu, W.Q.; Crotts, G. J. Controlled Release 1995, 33, 211.
  6. Miller, R.A.; Brady, J.M.; Cutright, D.E. J. Biomed. Mater. Res. 1977, 11, 711.
  7. Krukowski, Z.H.; Cusick, E.L.; Engeset, J.; Matheson, N.A. Br. J. Surg. 1987, 74, 828.
  8. Schoetz, D.J.; Coller, J.A.;Veidenheimer, M.C. Arch. Surg. 1988, 123, 72.
  9. Houchin, M.L.; Topp, E.M. J. Pharm. Sci. 2007, 97, 2395.
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