3D細胞培養モデル
細胞微小環境は、生物物理学的および生化学的な経路を介して直接的または間接的に細胞の挙動に影響を与えます。微小環境は、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、周囲の細胞、サイトカイン、成長因子、ホルモン、およびその他の生物活性物質で構成されており、張力および剛性のようなナノ/ミクロスケールの力学的特性を有しています。従来型の3D細胞培養では、Matrigel®マトリックス(E1270)のようなEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)肉腫由来の基底膜(BME)抽出の中に細胞を封入します。これらのハイドロゲルは、成長因子(TGFβ、EGF、IGFなど)とECMタンパク質(ラミニン、コラーゲン、エンタクチンなど)の両方を高濃度に含む不均質な混合物です。さらに、これらの腫瘍由来のハイドロゲルは、ネイティブ組織の微小環境を完全に再現しているわけではないため、実験がばらつき、誤った結果を導く可能性があります。最近、3D細胞増殖に合成ハイドロゲルが使用されています。しかし、これらのハイドロゲルは、3D培養でネイティブ組織の微小環境を十分に模倣するために必要な生物学的複雑性および機能性がしばしば欠けています。
脱細胞化細胞外マトリックス(dECM)スキャフォールド
組織本来の細胞外マトリックスを細胞から分離するために、脱細胞化処理が採用されています。得られた脱細胞化細胞外マトリックス(dECM)スキャフォールドは、細胞培養および組織工学のアプリケーションに使用できます。他の腫瘍由来基底膜抽出物(Matrigel®マトリックスなど)と比較して、これらのdECMハイドロゲルスキャフォールドは、より生理学的な環境を提供することができ、外因性成長因子を一切使用せずに高い増殖速度が得られます。
図1. 組織脱細胞化の概要。ブタ由来の臓器(肝臓、肺、心臓など)を脱細胞化処理し、ネイティブ組織特異的なECM成分を可溶化し、凍結した。これらのdECMハイドロゲルは、従来型の2D ECMコーティングや3D細胞培養用の細胞包含に使用可能。
図2.初代NHBE細胞培養。正常な初代ヒト気管支上皮細胞(NHBE)を肺dECMハイドロゲルまたはMatrigel®マトリックス上で10日間培養した。dECMハイドロゲル上で培養したNHBE細胞は、正常な肺上皮細胞マーカーであるFOXJ1、KTR5、NKX2.1、panKT、p63およびZO-1 (A,B,C) を強く発現し、 Matrigel®マトリックスと比較して大きなp63+基底気道細胞亜集団を形成した(D)。
図3.初代NHBE細胞のALI培養。21日後の正常な初代ヒト気管支上皮(NHBE)細胞の気液界面(ALI)培養。肺dECMハイドロゲルで培養したNHBE細胞は、Matrigel®マトリックスと比較して、より整った複雑な層を成す管腔構造を形成し、ヒト気道の細胞構造を再現しており、平均径は有意に大きくなった。
図4.肺dECMハイドロゲルは、ヒト肺がんのモデル化に使用可能。(A) JacketおよびA549肺腺がん細胞をKPT-185、エトポシドおよびチバンチニブに72時間ばく露し、細胞数をMTTアッセイにより分析した。肺dECMハイドロゲルで培養した細胞は、明確に薬剤耐性のプロファイルを示し、IC50値はMatrigel® マトリックスよりも高くなった。これは、より予測精度の高い生理的応答を示していると考えられる。(B, C) 肺dECMハイドロゲルで培養し、24時間後にスクラッチアッセイおよびボイデンチャンバーアッセイで測定したところ、JacketおよびA549肺腺がん細胞には遊走および浸潤の増加が認められた。(D) 肺dECMハイドロゲルで培養したJacketおよびA549の遺伝子発現。肺dECMハイドロゲルで培養した細胞は、Matrigel®マトリックスで培養した細胞よりも、ビメンチンを含むがん関連遺伝子の発現が低下した。
図5.初代ヒト肝細胞培養。初代ヒト肝細胞を肝臓dECMハイドロゲルで培養したところ、Matrigel®マトリックスまたはコラーゲンIと比較して、LDL受容体発現 (A) およびフィブリノーゲンの分泌 (B) が有意に高くなった。初代ヒト肝細胞およびHepG2肝がん細胞を肝臓dECMハイドロゲルで培養したところ、Matrigel®マトリックスまたはコラーゲンIと比較して、3D構造形成は有意に高度であり (C) 、シトクロムP450活性が強化され (D) 、グリコーゲン貯蔵量も増加した (E) 。
図6.初代ヒト骨芽細胞培養。骨dECMハイドロゲル(6 mg/mL)で培養した初代ヒト骨芽細胞は、培養1時間後に特徴的な樹状形態を示した。骨芽細胞は、培養7日後、Matrigel®マトリックスまたはコラーゲンIと比べて、骨dECMハイドロゲル中でより高いアルカリホスファターゼ活性を示した。
図7.乳がん転移アッセイ。乳がんの骨転移モデルとしてdECMハイドロゲルを使用した場合、プラスチック上(ECMなし)で培養した場合と比較して、乳がんサブタイプの薬剤反応に差が見られた。(A) BT-549細胞および (B) T47-D細胞の薬剤処理(パクリタキセル、5 µM)および溶媒(DMSO)に対する48時間の反応。
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