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セレンナノ粒子の多面的応用

Sarah K. Walsh, Naghmeh Kamali, Joe McGrath, John J. Hogan, John.P. Hanrahan

Glantreo Limited, ERI Building, Cork City, Ireland, www.glantreo.com

はじめに

必須微量元素であるセレンは、人間と家畜の両方に不可欠な栄養であり、セレノシステインを含む少なくとも25のヒトセレノプロテインおよび酵素のために必要な食品成分です。セレンには多くの健康上の利益があるため、動物用飼料や栄養剤の添加物として広く使われています。さらに、セレンは半導体であり光電活性を示すため、ゼログラフィーや太陽電池アセンブリなどの、より高度な用途でも利用されています。元素状態のセレンの存在は稀で、通常は有機化合物(セレノメチオニン、セレノシステイン)または無機化合物(セレン酸塩、亜セレン酸塩、セレン化物)として観測されます。

セレンのバルク材料と比較して、ナノ粒子は独特の電気的、光学的、磁気的、および化学的特性を示すことが多いため、均一で単分散のナノメートルサイズのセレン粒子の開発に商業的な関心が集まっています。セレンナノ粒子(SeNP:selenium nanoparticle)は、セレンの生物学的および光電的特性を強化することが示されているため、その用途が特に注目されています。さらに、SeNPは生体適合性があり、非毒性で、亜セレン酸塩(SeO32-)やセレン酸塩(SeO42-)と比較して低い細胞毒性を示します。

サイズを区別可能な6個のコロイド状セレンの写真。

図1.サイズを区別可能な6個のコロイド状セレンの写真。画像の左から右へ、平均粒子直径20.0±6.1、70.9±9.1、101.6±9.8、146.1±23、182.8±33.2、および240.4±32.2 nm。

均一で単分散な化学的に合成されたセレンナノ粒子のTEM画像

図2.均一で単分散な化学的に合成されたセレンナノ粒子のTEM画像 [Lin et al Materials Chemistry and Physics 92 (2005) 591-594]

用途1 – COVID 19診断用センサ - パンデミックにおける用途

ナノ粒子(NP:nanoparticle)は、バイオセンシング、ドラッグデリバリー、イメージング、抗菌薬治療など数多くの医療用途でよく利用されています。ナノ粒子は表面積が大きく、サイズが極めて小さいため、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR:reverse-transcriptase polymerase chain reaction)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay)、逆転写ループ介在等温増幅(RT-LAMP:reverse transcription loop-mediated isothermal amplification)などのウイルス検出法に用いられています。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2:severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)は、粒子に似た特性を示す直径60~140 nmのエンベロープウイルスです(図3)。機能性のあるコア-シェル型ナノ粒子(NP)としてみなすことができ、近接するさまざまな物質と相互作用し、生体活性を保持しながら可変な時間にわたって付着したままでいることが可能です。合成NPは形状が類似しているため、ウイルスをよく模倣し、そのタンパク質と強く相互作用できることが観察されています。

SARS-CoV-2の構造の図解

図3.SARS-CoV-2の構造の図解

Wangらによる研究では、ヒト血清および血液中のSARS-CoV-2 IgM抗体およびIgG抗体の複合検出を目的とする、SeNPを利用したポイントオブケア検査(臨床現場即時検査)の開発について考察しています。この検査には、セレンナノ粒子で修飾したSARS-CoV-2ヌクレオプロテインに基づくラテラルフローイムノアッセイキットが関与しています。このキットは、ヒト血清中のSARS-CoV-2 IgM抗体およびSARS-CoV-2 IgG抗体を検出し、目視で検出可能な結果を10分間以内に出します(検査キットの図解は図4を参照)。

このように、SeNPはラテラルクロマトグラフィー検査の標識化プローブとして使用できます。これらのナノ粒子には、表面プラズモン効果と小サイズ効果があり、タンパク質または核酸を標識化するために利用できます。SeNPはオレンジ色を示すので、目視可能なオレンジ色の線の存在で陽性結果を表すことが可能です。SeNPには、他の種類のプローブより感度とコストパフォマンスが高いという利点があります。

SARS-CoV-2抗体イムノアッセイ用テストストリップの略図および構成要素

図4.(a)SARS-CoV-2抗体イムノアッセイ用テストストリップの略図および構成要素。(b)テストストリップの結果を解釈するための目視評価のガイドライン。略語:His:ヒスチジンタグ。NP:SARS-CoV-2のヌクレオプロテイン。Se:セレンナノ粒子。IgM:ヒトIgM。IgG:ヒトIgG。Ab:抗体。C:対照、T:試験線 [Wang et al. Lab Chip, 2020, 20, 4255]

用途2 – 人間用食品および動物用飼料の栄養補助剤のバイオアベイラビリティの向上

ナノサイズの粒子は、ナノ材料の吸収、バイオアベイラビリティ、抗菌活性、排出の向上などの栄養上の利点を提供することができます。動物用栄養剤へのSeNPの補給は、単胃動物、反芻動物、および水生動物用の飼料に添加したときに非常に有望な結果が得られることが示されています(動物用飼料におけるSeNPの用途については、図5を参照)。ナノ粒子による無機質の送達は、飼料要求率を改善し、筋細胞の成長と発達を促進し、腸内細菌環境を改善し、コクシジウム症などの一般的な寄生虫症を治療し、家禽の死亡率を低減するために有効です。従来、セレンは無機化合物(亜セレン酸塩)または有機化合物(セレノメチオニン)として動物用飼料に添加されていました。しかし、ナノ粒子状セレンはセレノプロテインに取り込まれる前の代謝が不要で、したがって無機セレンよりバイオアベイラビリティに優れるため、有力な代替方法として動物用飼料にナノ粒子状セレンを利用できる可能性があります。現在、SeNP補給のヒト試験および商品は存在しませんが、これは非常に有望な研究分野です。

動物用飼料におけるSeNPの用途

図5.動物用飼料におけるSeNPの用途(www.glantreo.com)

用途3 – 医療機器

ナノ粒子は、体積に対する表面積の比率が高く、従来のマイクロメートルサイズの粒子より小さいため、さまざまな医療用途に向けて広く研究されています。表面積が大きいので、生体の構成要素と相互作用するためのサイトや、抗がん剤および抗菌剤などの他の生体活性分子で修飾するためのサイトがより多く存在します。ナノ構造セレンは、細菌と相互作用して死滅させるために利用できる表面積を増加させるとともに、細菌の付着を最終的に阻害するように表面形態を変化させます。さらに、亜セレン酸ナトリウムと比較して、SeNPは酸化を促進する効果が弱く、マウスにおける急性毒性が7倍低いことが示されています。

バイオフィルムは、容易に形成され除去も困難なため、医療機器による持続感染の一般的な原因となっています。医療機器(カテーテル、整形外科的装具、コンタクトレンズ、人工心臓弁などに使用される機器)の表面をSeNPで被覆して、バイオフィルムの形成を防止することが可能です。Wangらの研究では、SeNPで被覆したポリカーボネート製の医療機器の表面上の細菌S. aureusの増殖が強く阻害され、未被覆のポリカーボネート表面と比較して24時間後に91%、72時間後に73%阻害されていることが示されています。重要な点は、この結果が、抗生物質を使用することなく、人体にとって自然な元素により得られたということです。 図6は、ポリカーボネート表面のセレン濃度の増加に伴うS. aureusの密度の低下を示しています。

異なる量のセレンで被覆したポリカーボネート表面の<i>S. aureus</i>の密度。

図6.異なる量のセレンで被覆したポリカーボネート表面のS. aureusの密度。ポリカーボネートフィルムは細菌を含む溶液(1ミリリットルあたりの細菌数106)中で24、48、または72時間培養 [Wang et al. Lab Chip, 2020, 20, 4255]

用途4 – 抗がん作用

セレンの補給は、強力な抗がん療法として提案されています。大規模な二重盲検、無作為化のヒト介入試験で、200 µg/dayのセレン補給により、総死亡率の有意でない減少と、総がん死亡率ならびに肺がん、大腸がん、および前立腺がんの発生率の有意な減少につながる可能性があることが示されています。特にSeNPを使用したヒト介入試験は少数にとどまっていますが、in vitro試験では、葉酸で修飾したSeNPが、がん細胞株(乳がん細胞株MCF-7)でアポトーシスを誘起できることが観察されています。さらに、SeNPは、細胞毒性活性を引き起こすことで、培養中の前立腺がん細胞を収縮させて損傷を与えることが示されています。補助剤としてのSeNPは、サイズが小さく表面積が大きいため、セレンのバイオアベイラビリティと発がん抑制作用を向上させることができます。

セレンの化学保護作用の機構はまだ完全には解明されていません。ただし、セレンの抗腫瘍活性を説明するいくつかの仮説が提案されています。そのような仮説として、酸化的損傷に対する防護(抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼの構成要素としての機能)、発がん物質の代謝の変更、内分泌系および免疫系に対する効果、細胞毒性のあるセレン代謝物の生成、タンパク質合成の阻害、特定の酵素の阻害、アポトーシスの誘導などが考えられています。図7は、可能性のあるセレンの化学保護作用を示しています。

(A)がんにつながるさまざまなパラメータおよび抗がん剤としてのセレンの役割の説明。(B)セレンナノ粒子の存在下のがん細胞のアポトーシスの概略を示すモデル

図7.(A)がんにつながるさまざまなパラメータおよび抗がん剤としてのセレンの役割の説明。(B)セレンナノ粒子の存在下のがん細胞のアポトーシスの概略を示すモデル [Maiyo et al Nanomedicine 2017 Vol 12 No 9]

用途5 – 太陽電池

セレンには、高い感光性、加工のしやすさ、安定性など、太陽電池の構成要素として望ましい重要な特徴があります。この元素は高い吸光係数と移動度を示すため、高バンドギャップの薄膜型太陽電池の光吸収体に適しています。さらに、単一元素による光吸収体の単純さ(堆積工程の大幅な簡略化)と本質的な環境安定性により、極めて安価でスケールアップ可能な太陽電池をセレンを用いて作ることができます。セレン系太陽電池には、ケイ素やその他の新しい太陽電池材料に対する利点があります。ケイ素やCdTeの処理温度より大幅に低い温度(200℃未満)で処理することができます。また、セレン系太陽電池は、周囲条件(湿度、酸素など)に対する本質的な安定性を示します。さらに、p型半導体であるセレンは、両極性の輸送特性を示し、優れた輸送体と光吸収体の両方の機能を発揮しうることが示されています。Pejjaiらによる研究では、セレン化スズ(SnSe:tin monoselenide)NPを薄膜型太陽電池に組み込むことに成功し、0.43%という効率が得られています。図8に、SnSe NP太陽電池の概略図と特徴を示します。

(a)SnSe NP太陽電池の概略図。(b)SnSe NPヘテロ接合型太陽電池のJ-V特性。(c)SnSe NP光吸収層のSEM断面像。

図8.(a)SnSe NP太陽電池の概略図。(b)SnSe NPヘテロ接合型太陽電池のJ-V特性。(c)SnSe NP光吸収層のSEM断面像。[Pejjai et al. J Mater Sci: Mater Electron 27, 5491–5508 (2016).]

用途6 – スキンケア製品

コスメシューティカル(機能性化粧品)におけるナノテクノロジーの広範な利用が進んでおり、スキンケア、ヘアケア、ネイルケア、およびリップケアとして、また、しわ、光老化、色素沈着過剰、フケ、およびヘアケアによる損傷などの状況に対して、ナノコスメシューティカルが使用されています。SeNPなどの新しいナノ担体は表面積が大きいため、皮膚浸透の向上、制御された持続的な薬物放出、高い安定性、溶解度、バイオアベイラビリティの向上、部位特異的な標的化および高い捕捉効率といった利点があります(ナノコスメシューティカルの利点については、図9を参照)。

セレノプロテインは、抗酸化防御と還元された細胞環境の維持において重要な役割を果たします。紫外線は、皮膚の酸化的損傷を媒介する主要な物質である活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)を発生させます。UV-AおよびUV-Bに対する曝露を繰り返すと、サンバーンのリスクが増大する可能性があります。さらに、酸化ストレス(主にUV-A照射により促進)は、早期老化、タンニング、および皮膚がんを引き起こす可能性があります。セレンは、より一般的に使用される他の成分と比較して毒性が低いため、ナノ粒子の形状で日焼け防止製品に組み込まれています。セレンの抗酸化活性は、フリーラジカルの捕捉に関与する酸化還元酵素の活性を向上するため、サンバーン合併症の治療の効果的な代替手段となります。SeNPの局所投与の抗酸化効果は、ROSを排除して酸性のpH(4.2~5.6の範囲)を示すことで酸化ストレスを低減し、病原菌のコロニー形成の防止、酵素活性の制御、および多湿な環境の維持を支援します。

ナノコスメシューティカルの肯定的側面の図解

図9.ナノコスメシューティカルの肯定的側面の図解(www.glantreo.com)

用途7 – 農業

土壌のセレン含有量は世界各地で大きく異なり、その範囲は0.005~1200 µg g-1に及ぶ可能性がありますが、通常は0.1~10 µg g-1の間にあります。ある人のセレンの食事摂取量と血漿中のセレン濃度は、その人が摂食する食品の土壌セレン含有量に強く依存します。セレンの土壌濃度の規格化は、セレン含有肥料を利用して行うことができます。ナノスケールのセレンは、肥料の添加剤として大きな関心を集めています。有機および無機セレン化合物と比較して、SeNPは水や水溶液に溶解せず、土壌から迅速に浸出しません。セレンは、ナノ粒子表面の漸進的な酸化と土壌溶液への酸素の放出を介して、土壌から植物に供給される可能性があります。

SeNPで施肥した土壌において、果実、米、茶葉の収穫量が増加し、果実のセレン含有量が増加することが示されています。さらに、肥料に添加したSeNPがブルーベリーの生育周期を改善し、品質が向上して貯蔵期間が長くなりました(ダイコンに対する異なる濃度のSeNP施肥の影響については、図10を参照)。SeNPは、植物の疾患抑制および抗菌能力を強化することが示されています。さらに、ナノ肥料中のナノ材料は表面積が大きくサイズが小さいため、作物の施肥において相互作用を強化し、効率的な取り込みを可能にします。この取り込み効率の増加は、経済的および環境的に重要なメリットにつながる可能性があります。

植え付け20日後のダイコンの苗

図10.植え付け20日後のダイコンの苗。(a)そのままの土壌で生育(対照)。(b)1 µg g-1 SeNPで施肥した土壌で生育。(c)5 µg g-1 SeNPで施肥した土壌で生育。(d)10 µg g-1 SeNPで施肥した土壌で生育。(e)25 µg g-1 SeNPで施肥した土壌で生育。植物の生育速度が最も速かったのは、(c)および(d)の画像にそれぞれ示されている濃度5および10 μgの場合。(www.glantreo.com)

用途8 – 抗糖尿病作用

糖尿病に対するセレンの効果を示すエビデンスは若干不足していますが、糖尿病患者のセレン状態が対照群と比較して低いことが研究で示されています。糖尿病の有病率は、血漿中セレン濃度の低い男性で高くなる傾向があります。さらに、対照群と比較して妊娠糖尿病を患っている妊婦の血清セレン濃度が低く、血清セレン濃度とCRP、総コレステロール濃度、およびLDLコレステロール濃度との間に有意な負の相関があることを示した研究もあります。セレンの抗酸化力は、糖尿病の発病において主要な役割を果たす酸化ストレスを中和する効果がある可能性があります。さらに、セレンがグルコースの代謝に影響を与える可能性があるとする仮説があります。セレンの補給は、糖尿病患者において、インターロイキンや腫瘍壊死因子などの炎症性タンパク質の発現を低減することが示されています。ただし、セレンの毒性範囲は非常に狭く、有益な治療効果を得るためには注意が必要です。他の研究では、血漿中のセレン状態が高い人々で、糖尿病の有病率が高いことが示唆されています。現時点で、血漿中のセレン濃度と糖尿病のリスクを表すグラフはU字形になる可能性があります(図11)。これは、セレンの摂取量が多い場合と少ない場合の両方で、糖尿病のリスクや他の臨床的死亡率に影響する可能性があることを意味しています。したがって、低いセレン状態が糖尿病の発病リスクを増加させる可能性を示す観察上のエビデンスはあるものの、有益な治療効果が得られる安全なセレン補助剤の摂取量について、さらに研究を進める必要があります。

健康上の問題とセレン状態の関係を示すU字形のグラフ

図11.健康上の問題とセレン状態の関係を示すU字形のグラフ

用途9 – 抗炎症作用

セレンは主要な抗酸化元素であり、酸化還元反応を触媒する酵素を介して作用します。セレノプロテインは、細胞の抗酸化防御システムにおいて非常に重要な役割を果たします。多くの炎症性疾患(糖尿病、セリアック病、HIV)の経過およびアウトカムにセレンが影響を及ぼす可能性があることを示す強いエビデンスがあります。現在のデータでは、ウイルス、細菌、またはストレスに誘発される炎症が、セレンの利用可能性によりさまざまな影響を受ける可能性が示されています。

CRP値の高い急性または慢性の炎症状態において、血清セレン濃度の低下が観察されています。また、活性化マクロファージ、酸化的損傷、および組織傷害による活性酸素種(ROS)の生成の増加を特徴とする重症炎症反応症候群においても、低いセレン濃度が観察されています。核内因子カッパ-B(NF-KB)シグナル伝達経路は炎症反応の増強と関連づけられており、その活性化はインターロイキン-6およびTNF-アルファの生成と有意に相関しています。セレンは遺伝子発現を調節することでNF-KBの活性化を阻害するという仮説が立てられています。慢性炎症においてセレンを補給すると、セレノプロテインの生合成の増加により、枯渇していた肝内および血清のセレン濃度が回復します。この効果は、CRP生成の抑制につながり、その結果として炎症反応を減弱します。図12は、セレン含有酵素と炎症反応の間の関係を示しています。現在、SeNP補給の抗炎症作用を調べたヒト試験はあまり発表されていませんが、対応するより大型の材料と比較して、ナノサイズの粒子はバイオアベイラビリティを向上させて治療効果を強化できる可能性があり、将来有望な研究分野です。

セレンの補給により、NF-KBとプロモーター遺伝子の結合が阻害され、サイトカインの放出が減弱し、その後のCRPの合成が抑制されます。

図12.セレンの補給により、NF-KBとプロモーター遺伝子の結合が阻害され、サイトカインの放出が減弱し、その後のCRPの合成が抑制されます。セレン含有酵素の活性は、血漿中セレン濃度に直接依存します。グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx:glutathione peroxidase)の増加は、プロテインキナーゼの活性化およびIκBαプロセスのリン酸化を阻害します。(www.glantreo.com)

用途10 – 抗菌剤(表面)

体積に対する表面積の比率が高く、標的特異性があり、生体適合性に優れ、反応性が高いという特性から、SeNPは抗菌剤として成功を収めています。ナノ粒子は、リボソーム、DNA、RNAなどの細胞成分と相互作用して、抗菌作用に変化を引き起こしている可能性があります。ナノ粒子はエンドサイトーシスを介して細胞膜を透過し、次にサイトゾルを通過し、バクテリア細胞の遺伝子成分に損傷を与えると仮定されています。

SeNPは、グラム陽性菌に対する効果的な抗菌剤として作用することが示されています。Glantreo Ltd.による試験では、SeNP水溶液でポリエチレン製カバーグラスを被覆すると、MRSAの1 mlあたりの細菌コロニー形成単位の数が、2時間以内のインキュベーション時間で98%以上減少しました。MRSAには抗生物質耐性があることが知られているため、生物医学用途における抗菌剤としてのSeNPの利用は非常に有望だとと考えられます。

SeNPの抗菌作用はサイズに強く依存することがHuangらにより示されています。MRSAの増殖を阻害し、死滅させる効果が最大だったのは、約80 nmのSeNPでした。ROS生成を誘導する内部のATPの枯渇(図13)、膜電位の混乱など、SeNPはサイズに依存したマルチモーダルな作用機序を示すという結論が導かれています。

異なるサイズのSeNPで処理したS. aureusのATP濃度。

図13.異なるサイズのSeNPで処理したS. aureusのATP濃度。Stevanovic et al (Front.Bioeng.Biotechnol.8:624621.)

SeNPの抗菌作用は、多数の工業用途および医療用途で利用されています。Khirallaらは、生体SeNP(MIC90 25 µg/mL)が以下の6種類の食品由来病原菌に対する抗菌作用を示すと報告しています。B. cereusE. faecalisS aureusE. coli O157:H7S. Typhimurium、およびS. Enteritidis図14

3種類のグラム陰性食品由来病原菌に対するSeNP(0、5、10、15、20、25、30、35および40 µg/mL)の抗菌作用。

図14.3種類のグラム陰性食品由来病原菌に対するSeNP(0、5、10、15、20、25、30、35および40 µg/mL)の抗菌作用。試験された菌株の増殖は、595 nmにおける光学密度(OD595)で測定されました。追加の対照として40 µg/mL SeO2/mLが試験されました。異なる小文字が付いた棒は、各グループ内の有意な効果(p < 0.05)を示しています。アスタリスク(*)付きの棒は、同じSeNP濃度での菌株間の有意な差(p < 0.05)を示しています。(Khiralla et al. LWT-Food Science and Technology 63 [1001–7])

用途11 – フェイスマスクの有効性の試験

現在、COVID-19のパンデミックを引き起こしている新型コロナウイルスSARS-CoV-2は、主に呼吸器経路により伝染します(下記参照)。最近の研究で、フェイスマスクの着用がCOVID-19の伝播を集団レベルで抑制し、その結果、流行曲線の増大を鈍らせることが示唆されています。

SARS-CoV-2のサイズは、細菌、粉じん、および花粉より小さい60~140 nmの範囲です。したがって、綿や合成繊維などの孔径がより大きな材料で製造されたマスクは、孔径がより小さな材料で製造されたマスクと比較して、このウイルスや、ウイルスを含む小さな液滴を効果的に防御できないことが予想されます。 さらに、布素材は、SARS-CoV-2のサイズ領域の粒子に対する防護が限定的であることが先行研究で示されています。

粒子がフィルター繊維と相互作用するとき、繊維により「捕集」されて、ファンデルワールス力で保持されるという考え方が一般的に受け入れられています。小さな粒子の場合、粒子がフィルター繊維と相互作用する確率がブラウン運動により上昇します。サイズが大きくなると、粒子半径内にある繊維により捕捉される可能性があります。

マスクの有効性の決定は複雑なトピックであり、盛んな研究が続いている分野です。SARS-CoV-2に類似したサイズ範囲のナノ粒子を含有するエアロゾル溶液をマスクに通過させ、保持された溶液濃度を観測することで、ウイルスを含む液滴の拡散を抑制するマスク素材の有効性を推論する方法が提案されています。

セレンナノ粒子は、SARS-CoV-2に特徴的なサイズ範囲内(60~140 nm)で形成されるように合成することができます。この球形で単分散のナノ粒子は、水溶液中で特徴的なオレンジ~赤色を示します(図15)。

水溶液中のオレンジ~赤色のセレンナノ粒子

図15.水溶液中のオレンジ~赤色のセレンナノ粒子

マスク素材に向けて着色したナノ粒子水溶液を噴霧し、マスクに捕捉された溶液の濃度と捕捉されなかった粒子の濃度(マスク素材を通過した着色エアロゾル)を観測することで、SARS-CoV-2の伝播の阻害について検討されている材料の有効性を決定できるようになるかもしれません。図16に、マスク素材のウイルスに対する有効性を評価するための設計を示します。

6段アンダーセンサンプラーを用いた、マスク素材の細菌およびウイルスに対する有効性を評価するための設計。

図16.6段アンダーセンサンプラーを用いた、マスク素材の細菌およびウイルスに対する有効性を評価するための設計。(www.glantreo.com)

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