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リポソーム調製-Avanti® Polar Lipids

Dr. Stephen Burgess

Avanti® Polar Lipids主席研究員

1.小胞形成のメカニズム

リポソーム(脂質小胞)は、脂質薄膜または脂質ケークが水和し、液晶性二重層の堆積が流動体となって膨張する際に形成されます。水和した脂質シートは攪拌中に分離し、末端の部分で水が二重層の炭化水素核と相互作用することを防ぐため、自発的に閉じて大きな多層小胞(LMV, large multilamellar vesicles)を形成します。いったんこれらの粒子が形成されると、粒子の大きさを小さくするためには、超音波処理またはエクストルーダーを使った押出処理が必要です。

Image from Lasic, D.D., Recherche 20, 904, 1989

Image from Lasic, D.D., Recherche 20, 904, 1989

2.リポソームの調製方法

脂質形成の特性は組成(カチオン性、アニオン性、中性脂質種)によって異なりますが、組成に関わらず、すべての脂質小胞に同じ調製方法を用いることができます。すなわち、水和のための脂質調製、攪拌による水和、小胞の分散を均一にするためのサイジングが一般的な調製手順です。

A. 水和のための脂質調製

混合した脂質組成でリポソームを調製する際は、脂質を確実に均一に混合するため、脂質をまず有機溶媒に溶解して混合する必要があります。通常、クロロホルムまたはクロロホルム:メタノール混合溶液が用いられます。その目的は、脂質の混合を完全に行うための清澄な脂質溶液を得ることです。一般的に有機溶媒1 mLに対し脂質10~20 mgの濃度で脂質溶液を調製しますが、脂質の溶解性が高く混合が可能であればさらに高い濃度で行う場合もあります。脂質を有機溶媒に完全に溶解した後に、溶媒を除去すると、脂質膜が得られます。有機溶媒が少量(1 mL未満)であれば、ドラフト内で乾燥窒素またはアルゴン気流下で溶媒を蒸発させても良いでしょう。有機溶媒の量が多いときには、ロータリーエバポレーターを使って、丸底フラスコの壁面に脂質薄膜を形成させながら有機溶媒を除去します。その後、真空ポンプでバイアルまたはフラスコ内の残留有機溶媒を一晩かけて除去すると、完全に乾燥した脂質膜が得られます。クロロホルムの使用が好ましくない場合は、代わりにt-ブタノールまたはシクロヘキサンに脂質を溶解します。脂質溶液を適当な大きさの容器に移し替え、ドライアイスのブロック上に容器を置くか、ドライアイス-アセトンまたはアルコール(エタノールまたはメタノール)浴内で容器を回転させて撹拌するか、いずれかの方法で凍結させます。浴内の方法を用いる場合は、急な温度変化による容器のひび割れを避けるために注意が必要となります。完全に凍結させたら、容器を真空デシケーターに移し、真空ポンプを使って凍結した脂質ケークを乾燥するまで凍結乾燥させます(容積に応じて1~3日間)。脂質ケークの厚さは、凍結乾燥に使用する容器の直径を超えてはなりません。真空ポンプから取り出した乾燥脂質膜または脂質ケークは容器を厳重に密封してテープを巻き、水和を行う時まで凍結保存します。

リポソームの調製

B. 脂質膜/ケークの水和(Hydration)

乾燥脂質膜/ケークの水和は、水溶液を乾燥脂質の入った容器に添加し攪拌するだけで完了します。水和媒体の温度は、乾燥脂質に添加する前に、Tcが最も高い脂質のゲル-液晶転移温度(TcまたはTm)より高くする必要があります。水和媒体添加後は、水和の間中、脂質懸濁液の温度をTcより高く維持しなければなりません。相転移温度の高い脂質では、脂質懸濁液を丸底フラスコに移し、脂質懸濁液のTcよりも高い温度を維持した湯浴中、減圧せずにフラスコをエバポレーターで回転させることで水和を簡単に行えます。これにより適度に撹拌されて、流体相での脂質の水和が可能になります。水和時間は脂質の種類と構造によりわずかに異なりますが、激しく振とう、混合、または撹拌しながら1時間かけて水和することを強く推奨します。またダウンサイジング前に小胞懸濁液を一晩放置(エイジング)することで、サイジングがより容易になり、径分布がより均一になると考えられています。一方、相転移温度の高い脂質に対しては、温度の上昇とともに脂質の加水分解が進むためエイジングは推奨されません。

水和媒体は一般的に脂質小胞の用途により決定します。適切な水和媒体としては、蒸留水、緩衝液、生理食塩水、砂糖など非電解質の溶液があります。in vivo用途には生理的浸透圧(290 mOsm/kg)が推奨されます。これらの条件を満たし広く用いられている溶液は、0.9%生理食塩水、5%デキストロース溶液、10%スクロース溶液です。水和中に、複数の脂質はその構造特有の複合体を形成します。高荷電の脂質は、低イオン強度溶液で水和すると高粘性のゲルを形成することが確認されています。この問題は、食塩の添加または脂質懸濁液のダウンサイジングにより軽減できます。ホスファチジルエタノールアミンのように水和しにくい脂質は、水和の過程で自己会合する傾向があります。60 mol%を超えるホスファチジルエタノールアミンを含む脂質小胞は、小胞を取り囲む小さな水和層を有する粒子を形成します。粒子が互いに接近したとき、相手の粒子をはじく水和反発がなく、2つの膜は接着し凝集体を形成しやすいエネルギー状態に陥ります。凝集物は大きな綿状の塊となって沈殿し、この塊は攪拌すると分散し放置すると再凝集します。水和生成物は、脂質二重層が水の層によって区切られているような玉ねぎに似た構造の大型多層小胞(LMV)です。脂質層間のスペースは、静電的反発により離れている高荷電層よりも層同士の距離が近い多価水和層で構成されています。いったん安定した水和LMV懸濁液が生成されると、粒子は超音波処理または押出を含むさまざまな技術でダウンサイジングすることができます。

C. 脂質懸濁液のサイジング

i. 音波破砕(Sonication)

LMV懸濁液の分散を超音波処理すると、通常、大きさ15~50 nmの小型単層小胞(SUV, small unilamellar vesicles)が得られます。音波破砕による粒子の調製に最もよく用いられる機器は、水槽型超音波発生器とプローブチップ型超音波発生器です。カップホーン型超音波発生器はあまり広く用いられてはいませんが、SUVの生成に有用です。プローブチップ型超音波発生器は脂質懸濁液に強力なエネルギーを与えますが、脂質懸濁液を過剰に熱して分解を招くという欠点があります。また音波破砕チップは脂質懸濁液内にチタン粒子を放出する傾向があり、使用前に遠心分離によってこれを除去しなければなりません。これらの理由から、SUVの調製機器としては、水槽型の超音波発生器が最も広く用いられています。LMV懸濁液の超音波破砕は、懸濁液を含む試験管を超音波発生器の水槽に入れ(または超音波発生器のチップを試験管内に入れ)、脂質のTcを超える温度で5~10分間音波破砕する方法で行います。脂質懸濁液は徐々に透明化し、わずかに濁った透明な溶液が出来上がります。濁りは、懸濁液内に残留した大型粒子からの散乱光によるものです。これらの粒子を遠心分離により除去すれば、透明なSUV懸濁液が得られます。平均サイズと分布は、組成、濃度、温度、超音波破砕時間、パワー、容積および超音波発生器のチューニングに影響されます。超音波破砕の状況を再現することはほぼ不可能であるため、異なる時期のバッチ間でSUVのサイズに違いが生じることは珍しくありません。またSUVは膜の湾曲率が高いため本質的に不安定であり、相転移温度を下回る温度で保管すると、自然に融合してより大型の小胞を形成します。

超音波破砕についての詳しい情報は、Morrissey Lab Protocol for Preparing Phospholipid Vesicles (SUV) by Sonicationをご覧ください。

ii.押出(Extrusion)

脂質押出は、既定の孔径のポリカーボネートフィルターに脂質懸濁液を通し、使用したフィルターの孔径に近い直径の粒子を調製する技術です。最終的な孔径での押出の前に、凍結-融解サイクルを数回行うか、懸濁液をあらかじめより大きな孔径(通常0.2~1.0 µm)のフィルターに通すかの、いずれかの方法でLMV懸濁液を分離します。この方法は膜の目詰まりを防ぎ、最終的な懸濁液のサイズ分布が均一になるのを助けます。LMV分散液のダウンサイジングの全過程と同様に、押出は脂質のTcを超える温度で行う必要があります。Tcを下回る温度で押出を試みると、膜が詰まる傾向があり孔を通過できないため、不成功に終わるでしょう。100 nmの孔をもつフィルターで押出を行うと、通常、平均直径120~140 nmの大型単層小胞(LUV)が生じます。平均粒子サイズは脂質の組成によっても影響を受けます。バッチ間での再現性は非常に高いです。

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