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より高速なタンパク質とペプチドの液体クロマトグラフィー(FP2LC)

Roy Eksteen, Hillel Brandes

Reporter US Volume 32.1

BIOshell™Fused-Core®U/HPLCカラムの紹介

概要

逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)による、ペプチドとタンパク質の新しい幅広い分析製品ラインが、BIOshell™Fused-Core® U/HPLCカラムの名前で発表されました。低分子化合物分析用Ascentis® Expressカラムと同様に、BIOshell™カラムも効率、分離度、分析時間(スピード)、背圧といった1つ以上の重要なクロマトグラフィー属性に関し、同じ粒子径の全多孔シリカベースカラムより優れています。ペプチドとタンパク質の液体クロマトグラフィー(FP2LC)が高速化されたことにより、生物界の知識を発展させる仕事に就いている科学者にも、多孔シェルカラムの利点を享受していただけるようになりました。

背景および特長

Fused-Core® U/HPLCカラムは、1960年代後半のHPLC技術の形成期にJ. J. Kirkland氏がE. I. du Pont de Nemours and Companyで開発し、今世紀に2.7~5ミクロンの非常に効率的な粒子の作成に応用された薄膜シリカ技術に基づいて開発されました1,2。この技術に由来する最新の技術改革が、タンパク質とペプチドの液体クロマトグラフィー(FP2LC)分離を高速化するBIOshell™Fused-Core® カラムとして利用できるようになりました。ペプチド分析用BIOshell™カラムには、C18アルキルまたはアルキルシアノ官能基が結合した160 Åの微孔を有する2.7または5ミクロンの粒子が充填されています。一方、タンパク質分離には、C4アルキル官能基が結合した400 Åの微孔を有する3.4ミクロン粒子が最適です。BIOshell™カラムのリストを本稿の最後に示します。

2007年、Supelcoは低分子化合物を分析するための画期的なAscentis® Express Fused-Core® カラムを発表しました。その後数年で、(a)90 Å、2.7ミクロン多孔シェル粒子を充填したカラムによってその効率が予想を上回って大幅に進展し、全多孔性1.7ミクロン粒子充填カラムに匹敵するカラム効率を発揮し、(b)理論家の考え方にパラダイムシフトを起こし、それまで可能性がないと考えられていたカラム効率を説明できるように、クロマトグラフィーのバンドブロードニング理論を修正する必要があることが明確になりました3,4

Ascentis® Expressカラム中の粒子と同様に、BIOshell™カラムの粒子もナノサイズのシリカ粒子の薄層で取り囲まれた球形の固体ガラスコアで構成されています。表1に、新しいBIOshell™多孔シェルカラムの特長と最大動作条件をまとめます。

表1に示すように、BIOshell™カラムの粒子は、サイズの大きな生体高分子に適応するように約20 kDaまでの分子量のペプチドが制限なくアクセスできる160 Åの細孔、または約500 kDaまでの分子量のタンパク質に対する400 Åの細孔を備えています。多孔シェルの厚さは、同じサイズの全多孔質粒子と比較したときの表面積の割合と同様に様々であることに注意してください。したがって、3.4ミクロンの粒子に対する0.2ミクロンのシェルは、同じサイズの全多孔質粒子の31%に当たる表面積を有し、同様に2.7ミクロンの粒子に対する0.5ミクロンのシェルは最大表面積の75%、公称5ミクロン、実測4.7ミクロンの粒子に対する0.6ミクロンのシェルは、全多孔質粒子の59%の表面積を含んでいます。表面積が少なくなるのは懸念の要因のように思われますが、Unger は、非多孔質マトリックスでも大きな生体分子に十分な保持力を与えることを初めて立証しました。一方、GrittiとGuiochonは、大きな生体高分子でもコアシェル粒子の容量が大幅に減ることはないことを示しました。これは、広い孔を持つコアシェルカラムの負荷容量が全多孔性カラムのそれの1/2~1/3であることを見出したGuillaumeによる論文で最近確認された結論です5~7

表1はまた、結合相の特徴、推奨するpH範囲、およびそれぞれのタイプの粒子を試験したときの背圧と温度の最高値も示します。現在のUHPLCシステムで最大圧が600 bar(9,000 psi)というのは控え目に見えるかもしれませんが、最高動作温度が80~100ºCであるため、とりわけモノクローナル抗体などの高疎水性タンパク質を取り扱うときに、以下で説明されるように極めて有益なことが示されています。

表1. BIOshell™Fused-Core® カラムの特長と動作条件

公称値
物理的パラメーターDp(µm)コア(µm)シェル(µm)孔径
(Å)
SBET
(m2/g)
容量
対多孔
2.7 µm A160 Peptide C182.71.70.51608075%
2.7 µm A160 Peptide CN2.71.70.51608075%
5 µm A160 Peptide C184.73.50.61606059%
5 µm A160 Peptide CN4.73.50.61606059%
3.4 µm A400 Protein C43.43.00.24001531%
フェーズの特性と動作条件
物理的パラメーター結合相リガンドエンド
キャップ付き
Tmax
°C
pH
Pmax
(bar)
フリット
(µm)
2.7 µm A160 Peptide C18ジイソブチルオクタデシルシランNo1001–86002
2.7 µm A160 Peptide CNジイソプロピルシアノプロピルシランYes901–86002
5 µm A160 Peptide C18ジイソブチルオクタデシルシランNo1001–86002
5 µm A160 Peptide CNジイソプロピルシアノプロピルシランYes901–86002
3.4 µm A400 Protein C4ジメチルブチルシランYes902–96002

図1のクロマトグラムは、IgG2-Bサブタイプモノクローナル抗体を50ºCの8 MグアニジンHCl中100 mMジチオスレイトール(DTT)で35分間溶解し、硫化物結合を還元してから分析したものを示します。図1の主な成分はIgG2-Bの短鎖部(LC)と長鎖部(HC)です。長鎖部のピーク近くに予想されたいくつかの変異種があることは挿入図から明らかですが、小さなピークの同定は確認できませんでした。この分析は、他のグループによって最近確認された8~11、アムジェンのDillonらの結果に基づいて80ºCで行いました。

IgG2-B抗体フラグメントの高温分析。10 cm x 2.1 mm I.D. BIOshell™A400 Protein C4カラム使用。

図1. IgG2-B抗体フラグメントの高温分析。10 cm x 2.1 mm I.D. BIOshell™ A400 Protein C4カラム使用。

条件:カラム:BIOshell™A400 Protein C4、10 cm x 2.1 mm I.D.、3.4 µm(66825-U);移動相:A:水:0.1% TFA、B:アセトニトリル:水:0.1% TFA、80:20;グラジエント:33~40% B 10 min;流量:0.25 mL/min;温度:80ºC;検出:280 nm;注入:1 µL;試料:0.5 mg/mL IgG2-B、8 MグアニジンHCl中100 mM DDT、50ºC、35 minで処理;装置:ShimadzuTM Nexera®

図2に、高温で逆相カラムを操作する必要がある例を示します。ここでは、トップダウンでもボトムアップでもない、いわゆるミドルダウンアプローチによってモノクローナル抗体の構造を分析しました。ミドルダウンアプローチでは、IgGを少数の大きなフラグメントに消化してからさらに特性を評価します。FabRICATOR®として市販されている新規のタンパク分解酵素IdeSは、抗体をそれぞれ約100 kDaと25 kDaの分子量を持つF(ab’)2とscFcフラグメントに切ります。ジスルフィド還元を用いると、F(ab’)2フラグメントはさらにその軽鎖部(LC)とF(ab)成分に分解できます。最終的な混合液中の各成分の分子量は約25 kDaです。

図2に示す結果を目視で検査すると、90ºCで動作するBIOshell™A400 Protein C4カラム(A)は、競合する全多孔質3.5ミクロン粒子充填カラム(B)よりピーク幅が狭くピーク形状が良好であることが分かります。メーカーの推奨最高温度である80ºCで操作させ、その他2つの競合カラム(CおよびD)の結果からも、同じ結論を導き出すことができます。BIOshell™A400 Protein C4カラムは90ºCで操作できるため、抗体ベースのバイオ療法薬の開発と分析に携わる生化学者に有利な柔軟度をもたらします。

ワイドポア逆相カラムを推奨最高温度で操作させた抗体フラグメントの分析

図2. ワイドポア逆相カラムを推奨最高温度で操作させた抗体フラグメントの分析

条件:カラム:表記の通り、10 cm x 2.1 mm;移動相A:80:20、(水、0.1% TFA):(アセトニトリル、0.1% TFA);移動相B:50:50、(水、0.1% TFA):(アセトニトリル、0.1% TFA);グラジエント:30~70% B 12分間;流量:0.3 mL/min;カラム温度:表記の通り;検出:UV、215 nm;注入:1 µL、試料を移動相Aで希釈後

大孔径Fused-Core® 粒子を充填したカラムを高温高流量で連続運転したときの安定性を測定するために、5つの小球形タンパク質標準物を10 cm x 2.1 mm I.D. BIOshell™A400 Protein C4カラムに繰り返して注入しました。25%~40%のアセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)のグラジエントを10分間、流量0.5 mL/min、温度90ºCで繰り返し分析した最初と最後の注入結果を図3に示します。90ºCの酸性(pH~2.0)条件下、ほぼ15,000グラジエントカラムボリューム(1 CV~0.2 mL)で接触したあと、すべてのタンパク質でわずかな保持の喪失が観察されました。試験したタンパク質のピーク形状とピーク幅が実験中に変化しなかったのは、BIOshell™Fused-Core® カラムの優れた物理的安定性を示しています

BIOshell™ A400 Protein C4:カラム安定性

図3. BIOshell™ A400 Protein C4:カラム安定性

ピークID:1. チトクロムC(12.4 kDa);2.リゾチーム(14.3 kDa);3.アポミオグロビン(17 kDa);4.カタラーゼ(250 kDa合計;それぞれ約60 kDaの四量体);5.エノラーゼ(93 kDa合計;それぞれ46.7 kDaの二量体ダイマー)
条件: カラム:BIOshell™A400、10 cm x 2.1 mm 3.4 µm(66825-U);移動相A:水:0.1% TFA;移動相B:アセトニトリル:0.1% TFA;グラジエント:25~40% B 10 min間;流量:0.5 mL/min;カラム温度:90ºC;検出:215 nm;注入:1.0 µL;装置:Shimadzu Nexera

最後の例として、図4に5種の異なるトリプシン消化物(チトクロムC、β-ラクトグロブリン、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、カルボニックアンヒドラーゼ、ミオグロビン)のミックスを2.7ミクロンBIOshell™A160 Peptide C18カラム、および同じ寸法の全多孔性5ミクロンC18カラムの両方で動作させたときのクロマトグラムを示します。分析は、0.3 mL/minの同流量、同セッティング、最終グラジエント移動相組成で行いました。しかし、BIOshell™カラムのFused-Core® 粒子は微孔体積が小さいので、それぞれのカラムがカラム体積の同倍量のグラジエント(この場合は46倍)と接触するようにグラジエント量を調整しました。クロマトグラム(図4)全体から約20個のピークがMSデータから抽出され、Pc=グラジエント倍数/平均ピーク幅という一般に認められた定義を用いて、それぞれのカラムのピーク容量(Pc)を計算するときの代表試料にしました。ピーク幅は、選択した20種のペプチドのそれぞれに対してベースラインで算出しました。表2に、各カラムでのこの特定の分離に対するグラジエント時間(tg)、平均ペプチドピーク幅(w)、および算出したピークキャパシティーの実験値を示します。

2.7 µm BIOshell™カラムは、5ミクロンZorbax 300SB-C18多孔カラムより40%大きなピーク容量を示しましたが、これはピーク容量がプレート数の平方根に比例するという、以前の研究者の結果を確認したGilarが得た結果と一致します12

ペプチト消化物混合物に対するFused-Core®カラムと全多孔性逆相カラムのピーク容量

図4. ペプチド消化物混合物に対するFused-Core®カラムと全多孔性逆相カラムのピーク容量

条件:カラム:表記の通り、15 cm x 2.1 mm;移動相A:0.1%ぎ酸;移動相B:25:75、(0.4%ぎ酸):アセトニトリル;グラジエント:表記の通り(カラム体積に関して);流量:表記の通り;カラム温度:35ºC; 検出器:ESI (+) - TOF;注入:2 µL;試料:10 pmol/µL

表2. 算出したピーク容量

結論

Ascentis® Expressカラムとして市販されている、低分子量化合物の分析に、粒径分布が狭い多孔シェル粒子を用いることによってもたらされる進歩が、ペプチドとタンパク質の逆相U/HPLC分析まで拡大されました。予想され、実証された通り、大きなポアサイズのBIOshell™Fused-Core® カラムは、単位圧力損失当たりの効率という点で利点をもたらしますが、これはピークキャパシティーの増大によって利用できるか、またはFaster Peptide and Protein Liquid Chromatography(高速化されたペプチドとタンパク質の液体クロマトグラフィー)の頭字語であるFP2LCで有形化される利点である分析時間を短縮するために交換できます。

商標

Fused-Core® はAdvanced Materials Technology, Inc.の登録商標です。
Ascentis® はSigma-Aldrich Co. LLCの登録商標です。
BIOshell™はSigma-Aldrich Co. LLCの商標です。
FabRICATOR® はGenovis ABの登録商標です。
Shimadzu® およびNexetra® はShimadzu Corporationの登録商標です。

謝辞
図1と3を提供していただいたApplied Materials Technologies, Inc.のStephanie A. Schuster、Robert E. Moranの両氏に感謝します。

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