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高感度免疫原性アッセイによって抗薬物抗体(ADA)検出の課題を解決

新しい治療薬の創薬プロセスにおいて、薬物の免疫原性および抗薬物抗体(ADA)の検出は重要な役割を担っています。これらの免疫応答は、臨床における薬物動態や薬力学、安全性、有効性に影響を与える可能性があります。ADA形成の検出と解析のための高感度アッセイは、治療用タンパク質製品の開発プログラムにおいて重大な役割を果たし、ADAアッセイの開発を加速させることができます。ADAアッセイ開発の担当者が直面する最もよくある課題は、現在利用できる技術の検出限界によるものです。高感度1分子カウント(Single Molecule Counting、SMC®)テクノロジーを用いた高感度免疫原性アッセイにより、これまで検出できなかったADAを簡単に検出する方法をご確認ください。

免疫原性とは?

免疫原性は、生物学的治療薬やワクチンなどによる免疫応答を表す用語です。生物学的治療薬はすべて、良性から重度の副反応まで、さまざまな免疫介在性応答を引き起こす可能性があります。これらの影響は、投与している生物学的治療薬の臨床効果の低下から過敏症、アレルギー反応、さらにはサイトカインストームにまで及びます。免疫原性に影響を与える要因を表1に示します。

表1.免疫原性に影響を与える要因

抗薬物抗体(ADA)とは?

抗薬物抗体(ADA)は、治療薬により誘発される抗体で、免疫原性の評価に使用されます。特に医薬品開発の臨床段階において、中和・非中和ADAの産生に関する生物学的治療薬の免疫原性リスクを評価することが重要です。これらの中和・非中和抗薬物抗体の影響により、生物学的治療薬の臨床効果が低下することもあります。生物学的治療薬に誘発されるADAは、多くの場合、薬物動態(PK)、薬力学(PD)反応、臨床効果、患者の安全性に影響を与えます。

FDAの免疫原性ガイドライン

そのため、規制当局は免疫原性の影響の理解に努めており、臨床試験・前臨床試験における医薬品開発の初期段階から、免疫原性リスク管理のためのプログラムを組み込むよう業界に指示しています。

米国食品医薬品局(FDA)と免疫原性試験分野の医薬品専門家は、薬物が存在しない場合、そしてさらに重要な薬物が存在する場合の患者サンプル中の生物学的治療薬に対する抗体の検出に使用するイムノアッセイのデザインと最適化に関するガイドラインを発表しました。最初のスクリーニングアッセイでは、関連のあるすべてのイムノグロブリン(Ig)アイソタイプを検出できることが推奨されています1

  • 非粘膜投与経路でアナフィラキシーのリスクがない場合、関連するADAアイソタイプはIgMとIgGです。
  • 粘膜投与経路の場合は、IgAアイソタイプのADAも関連があります。
  • また、アナフィラキシーのリスクが高い、またはアナフィラキシーが認められている治療用タンパク質製品の場合、抗原特異的IgEアッセイの結果が有益な場合があります。

推奨される感度限界

FDAは、IgGおよびIgM ADAアッセイのスクリーニングおよび確認試験では、少なくとも100 ng/mLの感度を満たすことを推奨していますが、リスクと過去の知見によっては、100 ng/mLを上回っても許容される場合があります。しかし、100 ng/mL未満の濃度で持続的なADA応答を示す患者も観察されています。このデータは、100 ng/mL未満の濃度でも臨床反応と関連する可能性があることを示唆しています2,3

アナフィラキシーのリスクが高い、またはアナフィラキシーが認められている治療用タンパク質製品の場合、IgE ADAを評価するために開発されたアッセイの感度は、高pg/mLから低ng/mLの範囲である必要があります。抗原特異的IgEアッセイの結果が有用な場合もあります1。高い推奨感度は、FDAの申請ならびに一般に公開された研究で認められる科学の現状に基づいています。

免疫原性試験における感度の重要性

免疫原性試験では、一次免疫応答の早期検出や IgG4の検出につながる高感度な検出方法が重要です。FDAは個別に状況を判断して、これらを要求することができます。このような免疫応答の早期検出によって、臨床試験の次のステージに移る前に免疫応答を明らかにすることで、時間とコストを削減し、有害事象のリスクを軽減できます。

ADAの存在の特定には、これまでELISAや電気化学発光法(ECL)が使われてきました。ELISA法は、検出には有効ですが、感度に限界があるため、多くの場合、循環血液中のタンパク質治療薬の存在下では特定の抗体応答を適切に測定できません。

FDAによれば、ADAアッセイは、PK、PD、安全性、有効性に影響を与える前の低濃度のADAを十分に検出できる感度を有している必要があります1。これが高感度検出技術を用いた免疫原性試験にシフトする理由です。高感度ADAアッセイは、既存の技術に比べて著しく感度を向上させることができます。特に、循環血液中濃度が低いときに認められる、抗原に対する多価IgM ADA結合において、空間的制約により検出試薬とIgEとの結合が妨げられる場合に有効です。 

アッセイ感度が免疫原性試験に与える影響

アッセイ感度は、さまざまなかたちで免疫原性検査に影響を与えます。免疫原性試験における高感度アッセイの利点は、マトリックス干渉の問題を解決し、薬物/ターゲット干渉を低減することです。高感度イムノアッセイ技術を用いて、免疫原性アッセイの課題を解決することができます。一例として、薬物が数nMまたはnM未満の濃度で投与され、10 ng/mLのADAによって投与した薬物がすべて除去または中和されると考えられる場合が挙げられます。高感度イムノアッセイ技術なら、従来の技術では見逃されてしまうようなADAを検出できます。

また、100 ng/mLでは薬物耐性が不良な場合があります。従来の感度の限界を超えて、希釈率を高めてもADAを検出できる選択肢があることで、薬物耐性とマトリックス効果を改善できます。これは、酸解離などの前処理が不要になるという利点もあります。

また、マウスの研究ではサンプル量が少なく、ヒトの脊髄液などのサンプルは入手が困難なことから、これらのサンプルを節約して使うことが重要です。希釈してもADAを測定できるという選択肢があることで、貴重なサンプルを最大限に活用し、時間とコストを削減することができます。 

高感度SMC®テクノロジーによる免疫原性試験の改善

高感度1分子カウント(Single Molecule Counting、SMC®)テクノロジーにより、これまで検出できなかったADAを検出することが可能になります。SMC®テクノロジーは、精度と柔軟性を備えたSMCxPRO®システムにより、すべてのフェーズの免疫原性試験をサポートします。SMC®テクノロジーを使えば、免疫原性試験で直面する課題を克服し、これまで取得や解釈が困難だったデータを明らかにできます。

次のような可能性があります。

  • 希釈しても高感度で検出できることにより、アッセイ改変を避けつつマトリックス干渉の問題を解決
  • 高感度SMC®テクノロジーにより、アッセイの動態を標識薬物へと向けることで、循環血液中薬物干渉またはターゲット干渉を軽減
  • 従来は検出が困難であった、早期IgM応答および低濃度IgE応答を検出

2種類のアッセイフォーマット、プレートベースとビーズベースを利用できます。

ADAアッセイの開発

SMC®テクノロジーでは、薬物を標識するキャプチャ試薬、検出試薬およびバッファー試薬でアッセイを最適化することで、ADAアッセイの開発を可能にします。この技術により、シンプルで開発と検証が容易な、種に依存しない同種のアッセイフォーマットを開発できます。このアッセイフォーマットは、標識したキャプチャ薬物と検出薬物の間の橋渡しをADAが行うことから、しばしば「ブリッジングアッセイ」と呼ばれます(図1)。

サンプル中の抗薬物抗体検出のためのブリッジングアッセイフォーマットの図。

図1.サンプル中の抗薬物抗体検出のためのブリッジングアッセイフォーマット。免疫複合体の薬物にはAlexa fluorおよびビオチンが結合されており、磁性ストレプトアビジンビーズに捕捉される。

Auroraプレートの底面から250 μmの高さで集光した642 nmレーザーを用いて、回転する対物レンズで溶液中をスキャンし、集光空間を通過する蛍光色素を励起します。低ノイズアバランシェフォトダイオード(APD)で、放出された個々の光子をカウントします(図2)。集光空間によるシグナル取得は、ウェル間のクロストーク、光のメニスカス拡散から生じるフレア、ならびに懸濁液による干渉を軽減します。

1分子カウント(Single Molecule Counting、SMC®)テクノロジーにより、Alexa標識薬物が集光空間を横切るときの1分子カウントの説明。

図2.Alexa標識薬物が集光空間を横切るときにカウント

ADA検出におけるSMC®テクノロジーの利点

抗薬物抗体検出に関するSMC®の利点としては以下があります。

  • 低親和性ADAの高感度検出(pg/mLレベル)
  • マトリックス干渉を最小限に抑え、広いダイナミックレンジで高親和性ADAを検出
  • 通常は検出が困難なIgMおよび非常に低濃度で存在するIgEを含むすべてのADAサブタイプを検出可能
  • サンプル中の高濃度薬物に対する耐性
  • 低親和性抗体の検出のため洗浄ステップが少なく、アッセイ時間が短い
  • 高感度であるため、希釈が可能で、酸解離などのアッセイ改変を必要とせず、マトリックス干渉と薬物耐性の問題を解決
  • ECLアッセイからの移行が簡単なプレートベースアッセイフォーマット
  • 感度向上、または干渉の問題を解決するため、さらに希釈を行うことができるビーズベースアッセイフォーマット
  • フレキシブルなデータ解釈、21 CFR part II準拠、LIMS適応の、使いやすい統合ソフトウェアパッケージ

抗薬物抗体アッセイ開発のためのシンプルなワークフロー

キャプチャと検出に使用する薬物の標識が終了した後のビーズベースのADAアッセイ開発のワークフローを図3に示します。

  • サンプルインキュベーション
    • サンプル中のADAを2時間または一晩インキュベート
  • 複合体のキャプチャ
    • 複合体がブロッキングしたビーズにキャプチャ
    • 洗浄で結合していない抗体を除去
  • 溶出
    • 複合体を解離し、ビーズをマグネットで分離、溶出液を測定プレートに移す
  • 1分子カウント
    • 回転するレーザーでサンプルをスキャン
    • Alexa標識薬物を励起し、発生した光子をAPDでカウント
典型的な免疫原性ADAビーズベースアッセイのワークフロー図。

図3.典型的な免疫原性ADAビーズベースアッセイのワークフロー図。ブリッジングイムノアッセイ複合体がビーズにキャプチャ。次に、複合体をビーズから解離し、溶出液をSMCxPRO®システムで測定。A.サンプルインキュベーション、B.複合体のキャプチャ、C.溶出、D.1分子カウント。

免疫原性試験の開発では、研究対象の免疫系を十分に検証するための最適化が必要です。SMC®テクノロジーでは、以下のような検討を容易に行うことができます。

  • 薬物耐性
  • カットポイント/マトリックス耐性
  • 感度/アッセイのダイナミックレンジ
  • 再現性

さらなる最適化

治療用タンパク質の免疫原性評価に最も有効なアッセイを開発するため、さまざまな変数のさらなる最適化が行われる場合があります。具体的には、以下の通りです。

  • 薬物濃度(キャプチャおよび検出試薬)
  • アッセイ希釈液(ヒト抗マウス抗体やその他の阻害因子を軽減するため)
  • サンプル量
  • 洗浄ステップの回数
  • インキュベーション時間
  • スタンダード/サンプル希釈液
  • 最小希釈倍率(MRD)の決定
  • 薬物干渉/耐性の評価

薬物耐性

薬物耐性は、免疫原性における重要な検討事項であり、研究者が直面する課題です。薬物耐性とは、高濃度の薬物存在下で競合の結果、マトリックス中のADAを定量する能力が低下することです。このタイプのブリッジングアッセイでは、サンプル中のADAの定量に有利な平衡状態にするために、遊離型(標識されていないキャプチャまたは検出試薬)の薬物の量を最小限に抑えることが重要です。この課題を解決するため、酸解離などの複数の方法が使用されています。SMC®などの高感度技術を使用すれば、単純に希釈を行うだけでこの課題を解決でき、酸解離が不要になります。

図4に示すように、SMC®テクノロジーは、現在のゴールドスタンダードアッセイである電気化学発光イムノアッセイ(ECLIA)と比較して10倍の感度向上を実現します。

SMC®アッセイとECLIAの比較を示すグラフ。

図4.SMC®アッセイとECLIAの比較。従来のECLIA法と比較して、感度が195 ng/mLから20 ng/mLと10倍向上。

図5に示すように、SMC®テクノロジーでは、イムノアッセイで懸念されるフック効果を発生させるというエビデンスも認められていません。フック効果は、プロゾーン効果としても知られ、 過剰量のアナライトが存在すると、誤って結果が低値となることを指します。 

フック効果と感度を示すグラフ。

図5.フック効果と感度。現在のADAアッセイは、pg/mLレベルの低い感度でも100,000 ng/mLまでフック効果のエビデンスは示されない。

SMC®テクノロジーの高い感度により、薬物耐性を良好に解析することができます。また、クラススイッチおよび親和性成熟の前の一次ADA応答を早期に検出できる可能性もあります。

免疫原性のさらなる意義:獲得免疫応答の評価

病原体に対する獲得免疫応答には、さまざまなイムノグロブリンアイソタイプが関与する場合があります。スクリーニングアッセイでは、必ずしもアイソタイプを特定する必要はありませんが、複数の関連するクラスまたはサブクラスが結合できる必要があります。 多数のアイソタイプが免疫原性応答に主要な役割を果たしています。以下に例を示します。

  • IgE特異的アッセイは、アナフィラキシーのリスクが高い製品に有用な可能性がある
  • IgG4特異的アッセイは、長期にわたって投与される製品、またはエリスロポエチン投与を受けた赤芽球癆患者に対して有益な可能性がある
  • IgEおよびIgG4特異的アッセイは、過敏症のため、FDAから状況に応じて個別に要求される場合がある
    • 補体カスケードは、IgMとIgGによっても伝達される

これらの応答は、C1q、C4a、C3a、C5aなどのアナフィラトキシンの産生を介して、最終的に炎症反応の発現に至ります。免疫複合体の架橋により細胞上のFcRまたはCR(補体受容体)が関与することで、ケモカインと増殖因子が産生され、T細胞とB細胞の輸送と増殖のカスケード効果をもたらします。これによりサイトカインとケモカイン(IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-17、IL-21、IFN-gなど)が放出され、最終的に組織損傷が生じます。

関連製品

SMC® Immunogenicity Assay Development Kitは、開発プロセスを支援するためにデザインされています。また、メルクの経験豊富なアプリケーションサイエンティストが、ユーザーがこの技術を最大限に利用できるよう、デザイン、検証、およびトレーニングをお手伝いします。 

メルクのイムノアッセイポートフォリオを組み合わせて治療薬の免疫原性の影響を検討することで、応答メカニズムに関する大きな知見を得ることができます。SMC®の高い感度により、低親和性抗体の検出、一次ADA応答の早期検出が可能になり、マトリックス効果を解決、薬物耐性を低減できます。また、MILLIPLEX®マルチプレックスキットによって、免疫応答メカニズムに関する知見を得られ、ADAに対する免疫複合体を介した応答を深く理解することができます。

参考文献

1.
Immunogenicity Testing of Therapeutic Protein Products —Developing and Validating Assays for Anti-Drug Antibody Detection. [Internet]. Center for Drug Evaluation and Research: US Food and Drug Administration. .[cited 23 Apr 2020]. Available from: https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/immunogenicity-testing-therapeutic-protein-products-developing-and-validating-assays-anti-drug.
2.
Plotkin SA. 2010. Correlates of Protection Induced by Vaccination. Clin Vaccine Immunol. 17(7):1055-1065. https://doi.org/10.1128/cvi.00131-10
3.
Zhou L, Hoofring SA, Wu Y, Vu T, Ma P, Swanson SJ, Chirmule N, Starcevic M. 2013. Stratification of Antibody-Positive Subjects by Antibody Level Reveals an Impact of Immunogenicity on Pharmacokinetics. AAPS J. 15(1):30-40. https://doi.org/10.1208/s12248-012-9408-8
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